About Evacuation safety verification method避難安全検証法について

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1.はじめに

避難安全検証法は、設計者が防災計画の基本を理解した上で利用されることを前提として作られています。しかし、多くの設計者にとって避難安全検証法は単なるコスト削減の手法と受け止められており、法の盲点を突いた設計や、避難安全検証法の理解不足からくる不適切な設計も多く見られます。

正しい防災計画を立てずに、計算だけを成立させた計画ではかえって危険な設計となってしまいます。そういった計画に対し、本来は建築審査機関や行政が問題点を指摘する立場であるはずです。ところが、防災計画評定がなくなった現行法規では、彼らにはそこまでの責任と権限は与えられていません。その結果、非常に不安全な建物が建設されています。

また、審査者の知識不足や思い込みによる指導指示や、地域や審査機関による解釈の相違が、避難安全検証法の運用そのものに混乱を生じさせているように思われます。

そもそも避難安全検証法はどうして生まれたのでしょう。仕様設計での防災の要は、以下の対策となっています。

  • ①防火区画
    建物内での火災の広がりを抑え、避難時間を稼ぐ
  • ②二方向避難
    避難の冗長性を確保する
  • ③階段までの歩行距離(重複距離)
    避難時間が長くならないようにする
  • ④内装制限
    火災がすぐに大きくならないようにする
  • ⑤排煙
    煙に巻かれにくいようにする。視界を確保して煙が避難の妨げにならないようにする。

ところが、避難安全検証法では、検証で安全性能の確認ができれば、③階段までの歩行距離(重複距離)、④内装制限、⑤排煙、は適用除外にすることができてしまいます。

その代わり、安全性能が確認できるようにしようとすると、階出口に通ずる室(廊下等)の内装を準不燃以上として非火災室とした上、火災室に通ずる扉を防火設備にする必要が生じます。

また、排煙設備は火災室に設置するより階出口に通ずる室(廊下等)に設置した方が効果的と計算されます。これは何を意味するかというと、階段までの歩行距離、火災室の内装、排煙設備を整備するより階出口に通ずる経路(避難経路の部分)を守る方が、火災安全上効果的ということです。この考えは、1995年に発売された新・建築防災計画指針に既に示されています。要するに、避難安全検証法は、新・建築防災計画指針で示された防災計画に誘導する法律だということです。また、火災安全性能を検証で確認する方法ができたので、同時に無駄な防災設備の軽減も行えるよう整備したのです。

告示の計算の方法を読むと、複雑な計算式がたくさんで難しく感じますが安心してください。要は「避難経路の部分」を火災から守る計画さえ満たせば、後は居室安全性能を満たすように計算を繰り返しながら微調整をすれば完了です。防災計画さえできてしまえば申請書を作成するための計算はコンピュータに任せて考える必要はありません。以下に、避難安全検証法の概要を示します。

2.概要

避難安全検証法では、火災により発生する煙・ガス等に曝されず、在館者が安全に避難できることを、告示で定められた計算式に則って算出し、検証を行います。

検証の方法は、避難時間判定法(ルートB1)と煙高さ判定法(ルートB2)があります。

避難時間判定法(ルートB1)は従来の検証方法で、避難完了時間と煙が避難困難な高さになるまでの時間を比較する方法です。避難完了時間の算定は、建築防災評定で用いられた滞留評価は行わず、在館者は一様に分散しながら各避難出口に向かうものとして、流動係数を、避難出口、または、避難先(直通階段)の在館者の滞留によって変化させて評価します。煙降下時間は、出火居室及び階出口において煙が避難困難な高さ(1.8m)になる迄の時間を求めます。

煙高さ判定法(ルートB2)は2021年5月に公布された新しい検証方法で、最初に、避難完了時間を算出し、その時点の煙高さが避難困難な高さ(1.8m)以上であることを確認します。特徴として、避難完了時間の算定方法が、建築防災評定で用いられてきた計算方法に近くなりました。また、煙高さ算定の前提となる煙発生量が、避難時間判定法(ルートB1)では一定の煙発生量(定常火災)としていましたが、煙高さ判定法(ルートB2)では、時間と共に変化する(成長火災)となりました。これにより体積の小さな室の評価がしやすくなりました。

避難安全検証法の導入により、それまでの仕様規定による設計方法を「ルートA」、避難安全検証法を用いた性能規定による設計方法は「ルートB1・B2」と呼ばれるようになりました。

「ルートB1・B2」には、区画避難安全検証法・階避難安全検証法・全館避難安全検証法があり、それぞれの計算方法が告示に示されています。

ルートB1

区画避難安全検証法 
令和2年4月1日 国土交通省告示509号
階避難安全検証法  
令和2年4月1日 国土交通省告示510号(旧 告示1441号)
全館避難安全検証法 
令和2年4月1日 国土交通省告示511号(旧 告示1442号)

ルートB2

区画避難安全検証法 
令和3年5月28日 国土交通省告示474号
階避難安全検証法  
令和3年5月28日 国土交通省告示475号
全館避難安全検証法 
令和3年5月28日 国土交通省告示476号

一方、告示で定められた計算方法以外で避難安全性能を確認する方法を「ルートC」と呼びます。この場合は、国土交通省の認定を受けることが必要です。

3.確認申請の流れ

避難安全検証法(ルートB1・B2)による設計での確認申請は、下図に示すように指定確認検査機関・建築主事による確認となります。

確認申請の流れ

4.避難安全検証法の適用範囲

主要構造部の制限

建築物、または、階の避難安全性能は、火災を想定した時に、全ての避難者が直通階段、または、地上への避難を終了するまで、煙や有毒ガスにより危険な状態にならないことを確認します。そのためには、建物そのものが逃げ出す前に燃えてしまう、または、耐力を失うことにより避難できなくなる等の危険性がないこと、すなわち、主要構造部に一定の防火・耐火性能を有することが必要条件となります。

従って、避難安全性能の検証を行うことが可能な建築物は、主要構造部が準耐火構造(令第108条の3に定める技術的基準に適合するものを含む)であるか又は不燃材料であるものに限定されます。

避難安全検証法の制約

告示で定められた避難安全検証法は簡易なものであり、その適用には具体的な計算法の前提条件を満たさなければなりません。

  • 避難時間判定法(ルートB1)
    避難行動に関しては、基本的には自力で避難できることを前提に避難に要する時間の計算方法がつくられています。従って、例えば病院、診療所及び児童福祉施設等のように、自力で避難することが困難であると考えられる用途の階、または建築物に対しては区画避難安全検証法・階避難安全検証法・全館避難安全検証法ともに適用対象外とされています。実際、避難安全検証法の告示には、このような用途に利用される建築物や居室に対応する歩行速度の値が与えられていないため、歩行時間を計算することができません。
  • 煙高さ判定法(ルートB2)
    避難行動に関して、介助による避難を想定しているため、入院施設のある病院、診療所及び児童福祉施設等においても利用可能です。
  • 大臣認定(ルートC)
    詳細な予測手法を利用すれば、建物用途の制限はなく自力避難できない人も含めた避難や救助の状況を予測することも可能です。このような用途の建築物で避難安全性能を有することを検証する場合には、高度な検証法を利用することにより、国土交通大臣の認定を受けなければなりません。

5.階避難安全検証法と全館避難安全検証法

避難安全検証は、適用する対象が建物の1つのフロアの部分なのか(区画避難安全検証法)、1つのフロア全体なのか(階避難安全検証法)、建物全体なのか(全館避難安全検証法)によって3つの方法が定められています。それぞれ、区画避難安全検証法は「建築基準法施行令第128条の6」に、階避難安全検証は「建築基準法施行令第129条」に、全館避難安全検証は「建築基準法施行令第129条の2」に定められています。

避難時間判定法(ルートB1)

階(区画)避難安全検証法

以下の2つのステップで、階(区画)避難安全性能を確認します。

  • 第1ステップ(居室の避難安全の確認)
    火災室となる居室において、在室者(当該居室を通らなければ避難できない人を含む。)が居室の外へ安全に避難できることを確かめます。
    具体的には、検証を行う階にある居室毎に、在室者全員が居室からの避難を完了するまでに要する時間を求めます。
    次に、火災からの煙やガスが避難上支障のある高さ(h=1,800mm)まで降下するのに要する時間を求め、居室の避難完了時間が煙の降下時間を超えないことを確認します。
  • 第2ステップ(階(区画)避難安全性能の確認)
    火災室以外の室も考えて、検証を行う階(区画)に存する者(当該階(区画)を通らなければ避難できない人を含む。)がその階(区画)から安全に避難できることを確かめます。居室からの避難安全が確保されていても、火災室からの煙が避難経路となる廊下に拡大すると、火災室以外の居室からの避難が困難になるおそれがあるためです。
    まず、想定される火災室ごとに、階(区画)に存する者の全てが直通階段(区画外)へ避難を完了するまでに要する時間を求めます。
    次に、避難経路などの部分において、煙やガスが避難上支障のある高さまで降下するのに要する時間を求め、階(区画)の避難完了時間が煙の降下時間を超えないことを確認します。全ての火災室について、階(区画)の避難完了時間が煙の降下時間を超えないことを確認すれば検証は終了です。

全館避難安全検証法

全館避難安全検証法は、階避難安全検証の2つのステップに加え、全館避難安全性能があることを確認します。

  • 第1ステップ(居室の避難安全の確認)+第2ステップ(階避難安全性能の確認)
    検証を行う建物全ての階について階避難安全性能を有していることを確かめます。
    すなわち、居室ごとに居室の避難完了時間が煙の降下時間を超えないこと、火災室ごとに階からの避難完了時間が煙の降下時間を超えないことを確認します。
  • 第3ステップ(全館避難安全性能の確認)
    建築物全体からの避難について検討を行います。
    各階で階避難安全性能が確保されていても、火災室からの煙が直通階段や他の階に流入すると、火災室のある階以外の階からの避難が困難になるおそれがあります。
    そこで、火災の発生した室以外の人も含めて建築物内にいる全員が地上まで安全に避難できることを確かめます。想定される火災室ごとに、在館者全員が地上(建物の外部)へ避難完了するまでに要する時間を求め、階段の部分又は火災室のある階より上の階へ煙が流入するまでに要する時間を求めます。全館の避難完了時間が煙の流入時間を超えないことを確認します。
    全ての火災室について、全館の避難完了時間が煙の流入時間を超えないことを確認すれば検証は終了です。

煙高さ判定法(ルートB2)

階(区画)避難安全検証法

以下の2つのステップで、階(区画)避難安全性能を確認します。

  • 第1ステップ(居室の避難安全の確認)
    火災室となる居室において、在室者(当該居室を通らなければ避難できない人を含む。)が居室の外へ安全に避難できることを確かめます。
    具体的には、検証を行う階にある居室毎に、在室者全員が居室からの避難を完了するまでに要する時間を求めます。
    次に、避難完了次に火災からの煙やガスが避難上支障のある高さ(H1,800mm)以上であることを確認します。
  • 第2ステップ(階(区画)避難安全性能の確認)
    火災室以外の室も考えて、検証を行う階(区画)に存する者(当該階(区画)を通らなければ避難できない人を含む。)がその階(区画)から安全に避難できることを確かめます。居室からの避難安全が確保されていても、火災室からの煙が避難経路となる廊下に拡大すると、火災室以外の居室からの避難が困難になるおそれがあるためです。
    まず、想定される火災室ごとに、階(区画)に存する者の全てが直通階段(区画外)へ避難を完了するまでに要する時間を求めます。
    次に、避難完了時に火災室に隣接する避難経路などの部分において、煙やガスが避難上支障のある高さ(H1,800mm)以上であることを確認します。
    全ての火災室について、階避難完了時に火災隣接室において煙やガスが避難上支障のある高さ(H1,800mm)以上であることを確認すれば検証は終了です。

全館避難安全検証法

全館避難安全検証法は、階避難安全検証の2つのステップに加え、全館避難安全性能があることを確認します。

  • 第1ステップ(居室の避難安全の確認)+第2ステップ(階避難安全性能の確認)
    検証を行う建物全ての階について階避難安全性能を有していることを確かめます。すなわち、居室ごとに居室の避難完了時に煙やガスが避難上支障のある高さ(H1,800mm)以上であること、火災室ごとに階避難完了時に火災隣接室において煙やガスが避難上支障のある高さ(H1,800mm)以上であることを確認します。
  • 第3ステップ(全館避難安全性能の確認)
    建築物全体からの避難について検討を行います。
    各階で階避難安全性能が確保されていても、火災室からの煙が直通階段や避難階における避難経路に流入すると、火災室のある階以外の階からの避難が困難になるおそれがあります。
    そこで、火災の発生した室以外の人も含めて建築物内にいる全員が地上まで安全に避難できることを確かめます。想定される火災室ごとに、在館者全員が地上(建物の外部)へ避難完了するまでに要する時間を求めます。
    次に、避難完了時に階段隣接室、階段避難経路において煙やガスが避難上支障のある高さ(H1,800mm)以上であることを確認します。全ての火災室について、全館の避難完了時間においてが階段隣接室、階段避難経路において煙やガスが避難上支障のある高さ(H1,800mm)以上であることを確認すれば検証は終了です。

    ビル外観写真

6.避難安全検証法により適用除外される避難関係規定

建築物、または、階、階の部分が避難安全性能を有するものであることについて、避難安全検証法により確かめられたもの、または、大臣の認定を受けたものについては、現行の避難安全関係規定のうち一部の規定は適用されません。

項目 規定の概要 区画避難安全性能を有す 階避難安全
性能を有す
全館避難安全性能を有す
防災区画 112 7 11階以上の100㎡区画
11~13 竪穴区画
18 異種用途区画
避難施設 119 廊下の幅
120 直通階段までの歩行距離
123 1 避難階段の構造
第1号 耐火構造の壁
第6号 防火設備
2 屋外避難階段の構造
第2号防火設備
3 特別避難階段の構造
第1、2号 付室の設置
第12号 付室などの面積
第10号 防火設備
第3号 耐火構造の壁
124 1 物品販売業を営む店舗における避難階段等の幅
第2号 階段への出口幅
第1号 避難階段等の幅
屋外への
出口
125 1 屋外への出口までの歩行距離 -
3 物品販売業を営む店舗における屋外への出口幅 -
排煙設備 126-2 排煙設備の設置
126-3 排煙設備の構造
内装制限 128-5 特殊建築物の内装(第2、6、7項及び階段に係る規定を除く)
自動車車庫等、調理室等

7.検証方法の適用関係

避難安全性能は、各階=フロアごとに異なるルート(ルートA・B1・B2・C)を利用することが可能です。あるフロアには告示で定められた階避難安全検証法(ルートB1)を利用し、別のフロアには大臣の認定を受ける(ルートC)というように、1つの建築物の中で異なる検証方法で確かめられたフロアを混在させることができます。

しかし、全館避難安全検証法の場合は、建築物の全ての階を同一の検証方法で確かめる必要があります。例えば、告示の全館避難安全検証法を利用する場合、各フロアについて同一告示の階避難安全検証法により検証しなければなりません。

また、全館避難安全検証法で大臣認定を受ける(ルートC)場合、一部の階をルートAとすることはできませんが、階に応じてルートB1・B2で検証を行い、建物全体を大臣認定としてまとめることが可能です。

検証方法の適用関係

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