避難安全検証法について避難安全検証法ルートB1とB2の違い

2021年5月に新たな検証方法として「煙高さ判定法」(ルートB2)が示されました。同じ避難安全検証法である「避難時間判定法」(ルートB1)と何が違うのでしょう。

1. 判定方法の違い

「避難時間判定法」(ルートB1)

避難開始時間+歩行時間+出口通過時間で避難完了時間を求め、火災による煙がガスの高さが避難困難となる1.8mに達する迄の時間内に避難完了できることを出火が想定される居室と階の出口が設置される室において検証します。

「煙高さ判定法」(ルートB2)

避難開始時間+(歩行時間、出口滞留時間の長い数値)で避難完了時間を求め、避難完了次の火災による煙がガスの高さが避難困難となる1.8mに達していないことを出火が想定される居室と出火室の隣接室において検証します。

2.「避難時間判定法」(ルートB1)の問題点の解消

出火室を通らないと避難できない部分の制限

「避難時間判定法」(ルートB1)では、居室内居室(検証対象の居室を通らなければ避難できない部分で検証対象室と同時に避難を開始すると計算する部分)の範囲について制限はありません。その結果、同時に避難を開始するとは考えられない部分を含む計画でも安全性能が確認できました。「煙高さ判定法」(ルートB2)では、居室内居室の範囲を検証対象室と直接接続されている部分となりました。直接接続されていない場合、火災情報伝達の遅れを考慮して避難開始時間に3分加算されるようになり、極端な居室内居室の設置が制限されるようになりました。

出火室に最も近い避難経路の部分での煙高さで判定

「避難時間判定法」(ルートB1)では、階出口が設置されている室で階煙降下時間と避難完了時間を比較検証しているため、避難途上で煙に捲かれないか確認する必要がありません。そのため、最終出口の1つ手前で煙の伝播を抑えることによって、避難途上の安全性能が確保できていなくても検証上の安全性能の確認ができるような非常に危険な設計をする設計士がたくさんいることが問題となっています。「煙高さ判定法」(ルートB2)では、階避難完了時間時に出火室の隣接室での煙高さが1.8m以上であることを確認するようになり、危険な設計はできないようになりました。

非居室の出火室を経由しての避難はNG

「避難時間判定法」(ルートB1)では、非居室の出火室を通らなければ避難できない部分の安全性能の確認は行う必要がありません。これは「避難時間判定法」(ルートB1)の欠点です。「煙高さ判定法」(ルートB2)では、非居室である出火室から居室への火災情報の伝達はないことから非居室の出火室を経由しての避難は認められなくなりました。

定常火災から成長火災に

「避難時間判定法」(ルートB1)では、煙の発生量を一定とする定常高さで煙降下を予測しています。すると、蓄煙体積の小さな狭い室の煙降下時間は短く算定される傾向が強くなり、不用意に天井を高くする必要があります。「煙高さ判定法」(ルートB2)では、時間と共に煙発生量は変化する成長火災で煙高さを予測するようになりましたので、蓄煙体積の小さな狭い室の煙高さがより正確に予測できるようになり、不用意に天井高さを上げる必要がなくなりました。

スプリンクラーを評価

「避難時間判定法」(ルートB1)では、スプリンクラーは検証には評価されませんが、「煙高さ判定法」(ルートB2)では、火災成長率を低減することによって火災拡大が抑えられることを評価するようになりました。

避難完了時間の考え方の見直し

「避難時間判定法」(ルートB1)では、避難完了時間は、避難開始時間・歩行時間・出口通過時間の合計で求めています。しかし、識者から、避難が開始される時点で既に扉の付近の在室者も存在して避難開始と同時に出口を通過するので、在室者全員が扉の前に集まるまで出口の通過をしないというのは必要以上な安全を見込みすぎではないかという意見がありました。「煙高さ判定法」(ルートB2)では、新建築防災計画指針に示されるように、避難開始時間と歩行時間・出口通過時間の大きい方の合計で求めるよう見直しがなされました。

最大避難完了時間の制限

「避難時間判定法」(ルートB1)では、避難完了時間は煙降下時間より短ければ、時間の制限はなく、避難完了時間が建物の耐火性能を超える建物も安全性能が確認されたとなる問題がありました。「煙高さ判定法」(ルートB2)では、階避難完了時間は10分以内、煙温度の上昇も180度未満とする制限が設けられ、現実の火災にあった判定となりました。

3. より正しい防災設計に誘導する

「避難時間判定法」(ルートB1)は、設計者は当然防災設計の基本を守るものだという前提で作られていると感じられますが、それを逆手にとって、実際の安全性能は無視してコスト的に有利になるような設計をする設計者多く表れてしまったことを踏まえ、「煙高さ判定法」(ルートB2)では、より強制的に防火計画の基本に従わないと安全性能の確認ができないようになりました。

4. これからの日本の建築設計の目指すべき方向を示す

「煙高さ判定法」(ルートB2)は、計算で防災計画の基本を組み立てるように誘導する画期的な告示だと考えられます。しかし、計算自体は単純な計算式で構成されますが、計算に必要な要素を抽出する作業は非常に多く、計算ルートは複数の条件分けがあるため、ルールを覚えて手動で試行錯誤を繰り返しながら設計を進めることはほぼ不可能です。この設計手法を有効に活用するには、コンピュータの利用以外は考えられません。

しかしこのような複雑な処理を実現し、より正しい防災設計を目指すことが、これからの日本が目指すべき建築設計のあり方だとこの法律は示しています。

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