Column避難安全検証法使いこなし術

(17)徹底解説「煙高さ判定法」 第1回 居室避難開始時間

2024/02/01

表紙写真.jpg

 煙高さ判定法(ルートB2)は2021年(令和3年)告示474475476号として施行されました。避難時間判定法(ルートB1)の問題点が解決され、誰もが安全性能の高い建物を設計できる優れた検証方法です。しかし、施行後2年が経過しても正式な解説書すら発行されておらず、全く利用されていないのが現状です。
 この2つの大きな違いは避難完了時間と煙高さの算定方法です。避難時間判定法(ルートB1)ではで避難完了時間は、避難開始時間、歩行時間、出口通過時間の合計で求めますが、煙高さ判定法(ルートB2)では避難開始時間、出口通過時間(歩行時間、出口滞留時間の最大値)を合計して求めます。また、避難時間判定法(ルートB1)では階出口が設置された室で避難が困難になるまでの煙降下時間を算定して避難完了時間より長いことを確認しますが、煙高さ判定法(ルートB2)では避難完了時の火災室隣接部分の煙高さが避難に困難な高さに達していないか確認します。正しく検証を行うためにはこの違いをしっかり整理する必要があります。
 そこで、まず、煙高さ判定法(ルートB2)の居室避難開始時間について具体的に解説します。また避難時間判定法(ルートB1)と比較した結果も示します。文末に告示475号を添付しますので、照らし合わせながらご一読ください。

居室避難開始時間の計算方法

 居室避難開始時間の算定式は検証対象の室の条件に応じて異なります。

(一)当該居室及び当該居室を通らなければ避難することができない建築物の部分(以下「当該居室等」という。)が病院、診療所(患者の収容施設があるものに限る。)又は児童福祉施設(令第115条の3第一号に規定する児童福祉施設をいう。以下同じ。)(通所のみに利用されるものを除く)の用途に供するものである場合

 ⇒入院・宿泊施設のある病院、診療所、児童福祉施設
式1.jpg

(二)当該居室を通らなければ避難することができない部分がない場合又は当該居室を通らなければ避難することができない部分が当該居室への出口(幅が60センチメートル未満であるものを除く。)を有する場合((一)に掲げるものを除く)

 ⇒居室内居室がない、または、居室内居室から直接当該室に通じる扉が設置されている場合。(入院・宿泊施設のある病院、診療所、児童福祉施設を除く)
式1.jpg

 この場合、計算式は(一)と同じです。
簡略図で説明します。
居室内居室.jpg

 当該居室が居室(1)の場合、居室(2)は居室(1)に直接通ずる扉を有していますが、居室(3)は有していません。このような計画では(二)の条件には当てはまらず(三)その他の場合となります。
また、入院・宿泊施設のある病院、診療所、児童福祉施設では24時間監視体制が引かれているため居室内居室や孫室の有無にかかわりなく火災情報の伝達に遅れがないとされ、除外されているようです。

()その他の場合

 ⇒居室内居室に孫室がある場合
式2.jpg

孫室への火災情報の伝達の遅れを考慮し、3分が加算されます。

要点は、入院・宿泊施設のある病院、診療所、児童福祉施設を除く種類の室は、孫室が設置されていると火災情報の伝達の遅れが考慮され避難開始時間が長くなるということです。

次に算定式で利用されている項目について解説します。

Lwall(room)
当該居室の周長(m) 
 ⇒避難時間判定法(ルートB1)では、当該居室の床面積を根拠として計算しましたが、煙高さ判定法(ルートB2)では周長が利用されます。

αroom
次の式によって計算した当該居室及び当該居室に隣接する室(当該居室と準耐火構造の壁もしくは準不燃材料で造り、若しくは覆われた壁又は令第112条第12項に規定する10分間防火設備(以下単に「10分間防火設備」という。)で区画されたものを除く。以下同じ)。)の火災成長率のうち最大のもの(以下「居室火災成長率」という。)
 ⇒隣接する室との間仕切壁の仕様や開口部の仕様によって、居室火災成長率は隣接する室の室用途、内装の種類で決定される場合があります。

式3.jpgql
当該室の種類に応じ、それぞれ次ぎの表に定める積載可燃物の1平方メートルあたりの発熱量(単位 1平方メートルにつきメガジュール
 ⇒避難時間判定法(ルートB1)で利用される積載可燃物の発熱量と同じもので、室用途に応じて数値が定められています。

km
当該室の内装の種類に応じ、それぞれ次の表に定める内装燃焼係数
 ⇒内装によって、火災の進展速度の違いを評価しています。

隣接室との間仕切壁や開口部については以下の2点を考慮します
隣接室.jpg

①間仕切壁の種類
 準耐火構造の壁もしくは準不燃材料で造られ覆われていること。不燃材料・特定不燃材料も含まれます。

②開口部の種類
 10分間防火設備であること。防火設備・特定防火設備も含まれます。

①②の条件が満たされていない場合、隣接火災室と当該室の居室火災成長率を比較して大きい数値が当該室の居室火災成長率となります。

t0(room)
次の式によって計算した当該居室の燃焼拡大補正時間(単位 分)
式4.jpg

 以上、計算に必要な数値について説明いたしました。居室避難開始時間が隣接室の影響を受けることもご理解いただけたと思います。

右項、左項どちらの計算結果が利用されるか

 左項は単純に当該居室の周長により変化しますが、右項は当該室の積載可燃物の発熱量と内装の種類によって変化します。わかりやすい例として、不燃内装で、積載可燃物の発熱量が160MJ/㎡、480MJ/㎡の場合を比較してみましょう。

グラフ.jpg

 グラフからわかるように、積載可燃物の発熱量が増えると右項の結果が利用される周長が短くなります。要するに、面積が大きな室では右項の計算も行い左項の結果と比較しなければなりませんが、面積の小さな室ではその必要ありません。
 どうやら大規模な火災では小さな火災と比較して積載可燃物の発熱量が大きく、火災情報の伝達が早くなることが考慮されているようです。また、右項の計算式にはαroomt0(room)が含まれていますが、これは避難開始時間が長い場合、火災の拡大に伴い出火室の隣接室への延焼も考慮されていると考えられます。
 こうした思考を告示から読み取ることは困難ですし、数式の根拠となる学術論文等も今のところ見当たりませんが、実務で検証を行う際には注意が必要です。

避難時間判定法(ルートB1)との比較

 避難時間判定法(ルートB1)では、室面積から避難開始時間を算定します。煙高さ判定法(ルートB2)との違いを見てみます。
 下のグラフは、周長を2:3の長方形の室に置き換え面積を算出し、その面積から避難時間判定法の計算方法で避難開始時間を求めた結果と、周長から煙高さ判定法の計算方法で避難開始時間を求めた結果を比較したものです。

避難開始時間グラフ.jpg

 このように、同じ広さの室であっても結果は大きく違ってきます。避難時間判定法(ルートB1)では室面積が大きくなっても避難開始時間は煙高さ判定法(ルートB2)ほど長くなりません。避難時間判定法(ルートB1)では、実際の火災ではほぼ同時であろう避難行動を個別に算定しその合計で算出するので、避難完了時間を短く抑えるための補整が行われるように思われます。煙高さ判定法(ルートB2)では、煙高さを避難完了時間で算出するため、より現実に近い算定方法が用いられているようです。

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