(21)徹底解説[煙高さ判定法] 第5回 居室煙層下端高さ(2)
2024/04/01
第4回では、居室避難完了時の煙下端高さの算定方法の流れについて解説しました。今回は前回に引き続き居室煙層下端高さを求める時の計算式について解説します。添付の告示475号と照らし合わせながら読み進めてください。
出火後100秒以内と100秒を超えた後では火災の大きさが異なる
居室出口通過時間と煙層上昇温度の関係が
である場合、居室避難完了時間に応じて計算方法が異なります。
ρr.room:
居室避難完了時間が経過した時における居室の煙層密度(単位 kg/㎥)
Aroom:
当該居室の床面積(単位 ㎡)
Hroom:
当該居室の基準点から天井までの高さの平均(単位 m)
hroom:
当該居室の床面の最も低い位置から基準点までの高さ(単位 m)
これは煙高さ判定法で初めて登場した数値表現です。避難時間判定法ではHroom+hroomがHlowとされています。
少し複雑な数式ですが、ひとつずつ読み解いてみましょう。
まず、右項を0として左項の計算結果と比較することで、計算結果がマイナスになることを防ぐよう工夫されています。煙層下端高さは左項で計算されています。左項の-hroomは、室の最も低い部分から求めた煙高さを基準点高さからの数値に変換しています。すると主な計算は、{ }内で行われることがわかります。
以下の部分に注目してください。
①排煙は考慮されない
算定式には排煙計算の部分がありません。排煙設備による排煙効果は見込まれないということです。
②Hroom+hroom部分
煙発生量は室の最も低い部分から平均天井高さまでの高さで計算します。避難時間判定法では、床段差があると巻き上げ効果が極端に現れて僅かな段差でも煙降下時間が短くなりますが、煙高さ判定法で段差がある場合でも実際に近い結果となります。
③ρr.room部分
ρr.room(居室の煙層密度)は、∆Tr.room(居室避難完了時の煙層上昇温度)が高いほど小さくなり、煙層下端高さ算定式の分母にあって-3/2乗されるため煙層高さは低くなります。
∆Tr.roomは、tescape(room)≦tm(room)である場合、以下の算定式で求められます。
ここで注目していただきたい部分はQr,roomの算定式です。
この式は、発熱速度を算出する基本的な式で、居室避難完了時の発熱速度を求めています。
一般に
Q=αt2
α:火災成長率(kW/s2)=αf+αm
αm:内装仕上げによる火災成長率
αf:積載可燃物による火災成長率
t:時間(秒)
で表されます。
告示式で確認しましょう。
分単位を秒単位に置き換えるためtescape(room)に60が掛けられています。居室避難完了時間に応じて計算式が異なります。
火災成長率の算定式も、避難時間判定法の算定式と少し異なります。
避難時間判定法では、積載可燃物の発熱量に対して
ql≦170である場合、αf=0.0125
ql>170である場合、αf=2.6×10-6 ql5⁄3
として求め、別途内装の種類に応じて決められたαmと合計する必要がありました。
煙高さ判定法では
αroom,i=max(1.51×10-4 ql,0.0125)×km
km:
当該室の内装の種類に応じ、それぞれ次の表に定める内装燃焼係数
として、内装の種類に応じて算定します。
・居室避難完了時間が5/3分以下の場合
火災成長率は0.01に固定されています。これは、内装の種類や室用途の違いにかかわらず結果は同じであることを示しています。ごく初期の火災は出火点が燃えているだけなので内装の種類や周囲の燃え草量に関わらず一定であることが考慮されています。
・居室避難完了時間が5/3分を超えた場合
火災成長率は建物に合わせた数値を利用しますので、火災成長率の大きな用途の場合、発熱速度は大きくなります。
Zphase1(room):
火災発生後100秒経過した時における居室煙層下端高さ(単位 m)
この式は、tescape(room) ≦5/3である場合の煙層下端高さの算定式そのものです。
11tescape(room)5⁄3部分が26となっていますが、tescape(room)を100秒(5/3分)として計算すると26になります。
ただし、居室避難完了時の煙層上昇温度を求めるのに必要なQr,roomを求める場合の発熱速度は、0.01と固定されず、室用途に合わせた数値を用いるため、結果が変わることに注意してください。
Vs(r,room):
次の式によって計算した当該居室の煙等発生量(単位 ㎥/分)
Ve(r,room) :
次の式によって計算した当該居室の有効排煙量(単位 ㎥/分)
算定式の構成は、まず100秒経過時の煙層下端高さを求め、別に100秒経過後の煙降下量を煙発生量から排煙量を引いた数値から求め、合計することによって、煙層下端高さを求めます。これは、排煙設備による排煙効果を100秒経過後しか考慮しないためです。
避難時間判定法では、出火時点から一定の火災が継続する定常火災によって煙降下時間を算定します。排煙設備も出火時点から効果を発揮するものとしています。ところがこの検証方法では、蓄煙体積の小さな室の場合、煙発生量は過大な数値となり、安全性能を確認するには非常識な天井高さにしなくてはならないという不具合が生じます。
煙高さ判定法ではより実際的な検証方法として、出火後100秒以下は出火点のみの小さな火災に留まり100秒経過した後は火災が拡大する成長火災としています。それにより、排煙効果も火災が拡大した後に効果を発揮するものとされ、より実際に近い予測ができるように改善されています。
単純な対策では安全性能の確認に効果がない
室の平面形状を変更しない前提で安全性能が確認できない時、避難時間判定法で考えられる対策は次のようなものでしょう。
〇避難完了時間を短縮する
・歩行時間が短くなるように出口のレイウアトを検討する
・出口通過時間が短くなうように出口幅を広げる、追加する
〇煙降下時間を延長する
・内装の種類を「不燃材料」とする
・床段差を小さくする
・天井高さを上げる
・排煙設備を設置する
これらを検討し、採用可能ないずれか、場合によっては複数の対策を組み合わせることで、安全性能が確認できるよう対応していました。
ところが煙高さ判定法では、解決策を見出すのはそれほど単純ではありません。計画の初期段階から対策を想定しながら進め、問題が生じると平面計画から根本的に見直さなければならないことさえあります。それに関してはコラム(20)徹底解説[煙高さ算定法]第4回居室煙層下端高さ(1)の算定方法でも示した通りです。
・当該居室の煙層上昇温度は180度を超えてはならない
居室煙層下端高さが0にならないための条件として当該居室の煙層上昇温度は180度を超えないようにする必要があります。当該居室の煙層上昇温度の算定式から判断すると、まず居室避難完了時間が当該居室又は当該居室に隣接する室の燃焼抑制時間を越えないようにする必要があります。そうでないと最大煙層上昇温度が当該居室の煙層上昇温度となり180度を超えてしまいます。これは、建物の使用目的から室の大きさや形状が決定されると、この条件を守るための対策は室の出口幅と設置位置しかないということを意味します。小さな面積の室ではこの条件が問題になることはほとんどありませんが、大きな面積の室で在室者が多い用途の室の場合、避難経路も含め建物全体の計画に影響するため計画初期段階から確認しておく必要があります。
・居室避難完了時間が100秒以下の場合対策は限られる
前述のように100秒以下では火災成長率は0.01で固定されるため、内装の種類や用途の見直し等の対策では効果が得られません。また、排煙設備を設置しても計算には考慮されません。すると、避難完了時間を短くする以外に有効な対策は無いということになります。
ここまで5回にわたり煙高さ判定法の居室避難計算について解説しました。煙高さ判定法は避難時間判定法と比較して検証方法は複雑で面倒に感じますが、より実際的で常識的な感覚に近く、理不尽な結果が出ることはほとんどなくなっています。一方で避難時間判定法ではとりあえず仕様設計で設計を進めておいて、検証チェックについては外注事務所等に依頼し、問題点があればシンプルな対策で対応しつつ設計を進めることが可能でした。ところが、煙高さ判定法では、まず防災計画の基本に則り、設計と検証を同時に行いながら進める必要があります。
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