Column避難安全検証法使いこなし術

(20)徹底解説[煙高さ判定法] 第4回 居室煙層下端高さ(1)

2024/03/15

表紙写真.jpg

3回までは、居室の避難完了時間について解説してきました。今回は、居室避難完了時の煙層下端高さの算定方法について解説します。添付の告示475号と照らし合わせながらお読みください。

 令第129条第3項二号イに規定する同項第一号イの規定によって計算した居室避難完了時間が経過した時における当該居室において発生した火災により生じた煙又はガス(以下「煙等」という。)の高さ(当該居室の基準点(床面の最も高い位置をいう。以下同じ。)から煙等の下端の位置までの高さとする。(以下「居室煙層下端高さ」という。)は居室避難完了時間が経過した時における当該居室の煙層上昇温度(以下単に「当該居室の煙層上昇温度」という。)及び居室避難完了時間に応じ、それぞれ次の表に掲げる式によって計算するものとする。
 避難時間判定法では、居室避難完了時間よりも煙層下端高さが1.8mに達するまでの時間が長いことを確認しますが、煙高さ判定法では、居室避難完了時に煙層下端高さが1.8mに達していないことを確認します。煙層下端高さの計算は居室避難完了時の煙層の上昇温度によって計算式が異なります。
表1.jpg

 居室避難完了時の居室の煙層上昇温度の算定には、正確な居室避難完了時間の算出が不可欠です。居室避難完了時間の算出方法については、本コラム(17)~(19)で詳しく解説していますのでそちらをご参照ください。
 居室の煙層上昇温度は、以下の要領で算定します。少し複雑ですがしっかり読んで理解しましょう。

∆Tr,room
居室避難完了時に応じ、それぞれ次の表に掲げる式によって計算した当該居室の煙層上昇温度(単位 度)
表2.jpg

tescape(room)
前号に規定する居室避難完了時間(単位 分)

tm(room)
当該居室又は当該居室に隣接する室の内装仕上げの種類に応じ、それぞれ次の表に掲げる式によって計算した当該居室又は当該居室に隣接する室の燃焼抑制時間のうち最小のもの(単位 分)
 「隣接する室」は、居室火災成長率算定時の条件に「当該居室と準耐火構造の壁もしくは準不燃材料で造り、若しくは覆われた壁又は令第112条第12項に規定する10分間防火設備(以下単に「10分間防火設備」という。)で区画されたものを除く。以下同じ)。」と示されているので同じ条件が適用されることに注意が必要です。 表3.jpg

tm(room),i
当該居室又は当該居室に隣接する室の燃焼抑制時間(単位 分)

t0(room)
前号イに規定する当該居室の燃焼拡大補正時間(単位 分)

Hroom(min)
当該室の基準点から天井の最も低い位置までの高さ(単位 m)

αroom,i
前号イに規定する当該居室又は当該居室に隣接する室の火災成長率

Qr,room
居室避難完了時間に応じ、それぞれ次の表に掲げる式によって計算した当該居室における1秒間あたりの発熱量(単位 kw)
表4.jpg

Aw(room)
当該居室の壁(基準点からの高さが1.8m以下の部分を除く。)及び天井の室内に面する部分の表面積(単位 ㎡)

∆Troom(max)
当該室の内装仕上げの種類に応じ、それぞれ次の表に定める最大煙層上昇温度(単位 度)表5.jpg

 まず重要なことは、当該居室の煙層上昇温度が180度を超えないことです。180度を超えると居室の煙層下端高さは0mになってしまいます。煙層上昇温度が180度を超えないためには、居室避難完了時間が燃焼抑制時間を超えないようにする必要があります。居室避難完了時間が燃焼抑制時間を超えると、煙層上昇温度は計算によることなく最大煙層上昇温度となり180度を超え、居室の煙層下端高さは0mになってしまいます。燃焼抑制時間は内装の種類によって決まります。不燃:20分、準不燃:10分、難燃:5分と覚えておくといいでしょう。
 煙層上昇温度が180度を超えない場合、居室出口通過時間と当該居室の煙層上昇温度の関係によって計算式が異なります。

式1.jpg
√(500⁄3tpass(room) )は暴露限界温度といい、一定時間であれば煙に曝されても安全であることを意味します。よって計算によることなく居室の煙層下端高さは1.8m固定となります。分母にある居室出口通過時間が短いほどこの条件に当てはまりやすくなります。当該居室の煙層上昇温度が低く居室出口通過時間が短い室は計算するまでもなく安全性能が確認できるものと判断されています。例えば狭小な面積で居室避難完了時間が短い室は、実際の火災では瞬時に室外に避難できそうなのに、避難時間判定法では安全性能の確認が難しく、必要以上に天井を高くしなくてはなりませんでしたが、煙高さ判定法ではその問題が解決されています。

式2.jpg
 計算により居室煙層下端高さを求めます。居室避難完了時間が5/3分以内である時は、排煙設備が設置されていても評価されず、5/3分を超えている場合は、排煙設備による排煙が評価されます。排煙設備による排煙効果を得るために、ある程度煙が天井に蓄積する必要があることが考慮されています。これにより、避難時間判定法では避難時間に関係なく出火時点から排煙効果をみていた問題点が解決され、より現実的な計算方法に改善されました。

 避難時間判定法では、居室避難完了時間と居室煙降下時間に計算上の関連はありません。そのため安全性能の確認ができない場合、①居室避難完了時間を縮小する=扉の幅を広げる、扉の追加設置を検討する、等々 ②居室煙降下時間を延長する=内装の不燃化を図る、天井高さを上げる、排煙設備を設置する、等々、それぞれ別個に対策していました。
 対して、煙高さ判定法では、居室避難完了時間と居室煙層下端高さは密接に関連しています。従って、単に天井高さを上げたり、排煙設備を設置するような、上っ面な方法では解決できないことがご理解いただけたと思います。

 以上、今回は、居室避難完了時の煙層下端高さの算定の流れを解説しました。次回はその計算式について、より詳しく解説します。

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