Column避難安全検証法使いこなし術

(27)徹底解説「煙高さ判定法」 第11回 火災室隣接部分の煙層下端高さ(3)

2024/07/01

表紙写真.jpg

 「煙高さ判定法」階避難完了時の火災室隣接部分での煙層下端高さ算定について、前回の煙層上昇温度の算定に続き、煙層下端高さを求める算定式について解説します。添付の告示475号と照らし合わせながら読み進めてください。

 火災室隣接部分での煙層下端高さの算定方法の基本的な流れは居室煙層下端高さの算定方法とよく似ています。
式1.jpg
 √(500⁄3tpass(floor))は暴露限界温度といい、一定時間であれば煙に曝されても安全であることを意味します。よって、計算によることなく火災室隣接部分の煙層下端高さは1.8m固定となります。
 火災室隣接部分の煙層上昇温度が低く階出口通過時間が短い室は、計算するまでもなく安全性能が確認できるものと判断します。分母にある階出口通過時間が短いほどこの条件に当てはまりやすくなります。

式2.jpg
 当該火災室から煙が火災室隣接部分に漏れ出すか否かによって、計算が異なります。

td(room)
次の式によって計算した当該火災室における漏煙開始時間
 左項は、100秒後の煙高さと煙が漏れ出す高さ(Hlim)の蓄煙体積の差を煙発生量から排煙量を差し引いた数値で除することによって出火後100秒に対しての時間差を求めた上、5/3分(100秒)を加えることで出火からの時間を求めています。右項は、火災室燃焼抑制時間を越えると間仕切壁の構造や開口部にかかわらず漏煙がはじまると判断します。
 式3.jpg

Zphase1(floor)
次の式によって計算した火災発生後100秒間が経過した時における当該火災室の基準点から煙等の下端の位置までの高さ(以下、「火災室煙層下端高さ」という。)(単位 m
 右項がHlimとなっていること以外は、火災発生後100秒間が経過した時における居室煙層下端高さの算定式と同じです。
 式4.jpg

Vs(f,room)
次の式よって計算した当該火災室の煙等発生量(単位 ㎥/分)
 居室の場合の1.8がHlimとなっていること以外、同じです。
 式5.jpg

Ve(f,room)
次の式よって計算した当該室の有効排煙量(単位 ㎥/分)
 居室の場合の1.8がHlimとなっていること以外、同じです。
 式6.jpg

式7.jpg
 Zfloor=Hfloor 
 階避難完了時間が漏煙開始時間より短いと煙は漏れ出しません。全く蓄煙されていないので、煙層下端高さは当該火災室隣接部分の基準点から天井までの平均天井高さになります。

Hfloor
当該火災室隣接部分の基準点から天井までの高さの平均(単位 m)

式8.jpg

 階避難完了時間が漏煙開始時間より長いと煙は漏れ出し、火災室隣接部分で溜まります。
 以下の算定式は、火災発生から階避難完了までの間に出火室より漏れ出した煙量から排煙量を差し引くことで、蓄煙される煙層の高さを算出します。基本的な算定方法は避難時間判定法と同様に、煙発生量、排煙量は一定であるとしています。
 式9.jpg

Vs(f,floor)
次の式よって計算した当該火災室隣接部分の煙等発生量(単位 ㎥/分)
 式10.jpg

Ve(f,floor)
次の式よって計算した当該火災隣接部分の有効排煙量(単位 ㎥/分)
 式11.jpg

Afloor
当該火災室隣接部分の床面積(単位 ㎡)

 以上、階煙層下端高さの算定方法をご理解いただけたでしょうか。
 最後に要点をまとめます。

①避難完了時間は10分以内とする必要がある。
 避難完了時間が10分を越えると火災室隣接部分の煙層下端高さは0mとなります。これは計算で0mとなるのではなく、避難完了時間は10分を越えることは認められないということです。避難時間判定法では僅かな工夫で階煙降下時間をいくらでも延長することが可能です。建物の耐火時間を越える階避難完了時間であっても検証上の安全性能が確認できてしまう不具合に対応したものです。煙高さ判定法では10分間防火設備を利用する検証が可能になったため、最低限の建具の健全性を越えないようにしたものと思われます。
 こうした基準ができたことは歓迎すべきことです。しかし、本来はどのような基準であれ、設計士が気付いた時点で当然対応すべきことであると思います。それなのに、基準が示されていないことを悪用し、非常に危険な建物を平然と設計する設計士が少なくないのは嘆かわしいことです。その結果、国民の安全、安心を守るために細かな基準を設け、複雑な検証を行う必要が生じました。設計士のみなさん、煙高さ判定法を自分だけの力で検証して申請書の作成ができますか。「できないので外注に出します」という声が聞こえてきそうですが、生命を守る業務を外注任せにするなど、建築士の主たる業務である計画設計を放棄するに等しい行為です。初心を忘れず、建築士の資格に恥じない仕事をしていただきたいと切に願います。

②火災室隣接部分の煙層上昇温度は180度以下とする必要がある。
 避難時間判定法では煙温度は問われませんでしたが、煙温度の上昇は、避難上たいへん危険です。高温の煙が窓ガラスに触れて割れ新鮮な空気が屋内に流れ込んでバックドラフトが起こり、在館者の避難経路を塞いでしまうでしょう。煙温度は出火から時間の経過とともにどんどん上昇します。直接煙に曝されなくても、煙温度が上がらない内に避難完了できるようにする必要があります。

③避難安全の基本的要件を満たしたうえで、在館者を煙や熱からどのように守るかを考える。
 検証法では、煙に曝されないようにするための計算を行いますが、これはあくまで予測でしかありません。数字では測れない安全性能、想定外の危険性がたくさんあるのが現実です。避難安全の基本的要件はしっかりと満たしたうえで、避難経路をより安全にする方法、パニックが生じても事故無く必ず階出口に到達できるような計画、火災を出火場所に封じ込める工夫、等々...これらを考え、形にできるのは法律ではなく設計士のみなさんです。コスト削減やデザイン性も重要でしょうが、建て主や建物を利用する人々を守る建物づくりのために、もっと勉強していただきたいのです。より安全な建物を設計するためのヒントは、避難安全検証法の告示にたくさん盛り込まれています。
 煙高さ判定法は、避難時間判定法に比べ、扱う人による差異が生じにくく、適正な検証を行うことが可能です。手間がかかる検証作業には、株式会社九門が開発したSEDが利用できます。ぜひ、煙高さ判定法を使いこなし、安全な建物の設計に活用してください。

 11回にわたり、煙高さ判定法(ルートB2)の検証方法について解説しました。告示で使われる用語、定義の説明が独特で、解釈が難しい箇所があり、推測で判断せざるを得なかったところもあります。図表等でわかりやすく説明された正式な解説書の出版が待たれるところです。
次回からは、煙高さ判定法(全館避難安全検証法)についての解説となります。

 株式会社九門が開発したSEDは、避難時間判定法(ルートB1)の検証で入力したデータを、検証方法を切り替えるだけで煙高さ判定法(ルートB2)でも検証可能です。データの入力はCAD感覚で簡単です。ぜひ、30日間無料トライアルをお試しください。

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