Column避難安全検証法使いこなし術

(29)徹底解説「煙高さ判定法」 第13回 全館出口通過時間

2024/08/01

表紙写真.jpg

 煙高さ判定法(ルートB2)による全館避難安全検証法について、前回に続き、全館出口通過時間について解説します。
 全館出口通過時間は、告示255号に示される方法により求めます。告示476号に加え、今回は告示255号も添付しますので、必要に応じて双方を参照し読み進めてください。

出口通過時間の計算方法

 次の式によって計算した在館者が当該建築物の各室から地上への出口(幅が60センチメートル未満であるものを除く。)の一に達し、かつ、当該出口を通過するために要する時間(以下「出口通過時間」という。)(単位 分)
 tpass=tescape(w)+tescape(c)

tescape(w)
平成27年国土交通省告示第255号第14に規定する当該建築物の各部分から地上までの避難を終了するまでに要する歩行時間のうち最大のもの

tescape(c)
平成27年国土交通省告示第255号第14項に規定する当該建築物の各部分から地上までの避難を終了するまでに要する各階段における滞留時間のうち最大のもの

 階避難安全検証法では、収容施設のある病院、診療所や宿泊可能な児童福祉施設を除き、出火室毎に求めた歩行時間と出口滞留時間の中で最大のものを階出口通過時間としますが、全館避難安全検証法では、歩行時間の最大のものと滞留時間の最大のものとを合計して全館出口通過時間を求めます。避難開始時間は火災部分毎に異なりますが、出口通過時間は最も長い1つを抽出します。

tescape(w)
次の式によって計算した当該建築物の各部分から地上までの避難を終了するまでに要する歩行時間のうち最大のもの(単位 分)
 式1.jpg

L
当該部分から地上への出口の一に至る歩行距離

v
当該部分の用途、建築物の部分の種類及び避難方向に応じ、次の表に定める歩行速度
ここでの「歩行速度」は、告示475号(階避難安全検証法)に示される「滞留時歩行速度」と同じです。告示によって呼称が異なるので紛らわしく、参照時には注意が必要です。

tescape(c)
次の式によって計算した当該建築物の各部分から地上までの避難を終了するまでに要する各階段における滞留時間のうち最大のもの(単位 分)
 式2.jpg

P:
次の式によって計算した当該階段を経由して避難する者(以下「避難者」という。)の数(単位 人)
 式3.jpg

p:
次の表の上欄に掲げる避難者の存する居室の種類に応じ、それぞれ同表下欄に定める在館者密度(単位 人/㎡)
表の「在室者密度」は告示475号(階避難安全検証法)に示される「密度」と同じです。

Aarea
避難者の存する居室の床面積(単位 ㎡)

 避難者数は、「当該階段を経由して避難する者の数」と示されているので、階段毎に算出する必要があります。ところがその算定方法は具体的に示されていません。階避難検証と同様に、階段への出口幅按分で求める方法が妥当と思われます。
 式4.jpg
また、避難階における避難者数は、ルートB1と同様、階段を通じての避難は行われないものとして算定します。

R
次の式によって計算した当該階段における流動量(単位 人/分)
 式5.jpg

Dco
当該階段から地上に通ずる廊下の幅のうち最小のもの(単位 m)
階段から直接地上に通ずる出口がある場合は、∞(無限大)とします。

Rd
次の式によって計算した当該階段から地上に通ずる各出口の有効流動量のうち最小のもの(単位 人/分)
 式6.jpg

Bd
当該出口の幅(単位 m)

Nd
次の表の左欄に掲げる当該出口の区分に応じ、それぞれ同表の右欄に定める当該出口の流動係数(単位 人/分・m)
表1.jpg 
「(19)徹底解説[煙高さ判定法] 第3回 居室出口滞留時間」でも読み解くのに苦しみましたが、どこに設けられた出口のことを指しているのかがここでも不明確です。「当該階段から地上に通ずる各出口」すなわち、避難階で階段から出て地上へ通ずる全ての扉は「出口」だと解釈すると以下のようになります。
図1.jpg

Rst
次の式によって計算した当該階段の有効流動量(単位 人/分)
 式7.jpg

Dst
当該階段の幅(単位 m)

Nst
次の表の上欄及び中欄に掲げる場合の区分に応じ、それぞれ同表の下欄に定める当該階段の流動係数(単位 人/分・m)
表2.jpg

Dlanding
当該階段の踊り場の幅(単位 m)

Dst
当該階段の幅(単位 m)

 居室計算でNst(room)を算定する式と同じです。全館避難安全検証法では付室の設置が前提となっていますので、付室が設置されない場合の階段内での滞留を考慮した算定式は示されていません。

避難時間判定法との違い

 煙高さ判定法では、解釈を混乱させていた階出口が設置される室で出火した場合に出火室に設置される最大幅の階出口は利用できないものとする規定がなくなりました。また、避難階において地上へ通じる専用の出口を有する室が検証対象から除外される規定は、専用出口の有無にかかわらず避難階の全ての在館者が除外されると改定されました。避難階の在館者については、階避難検証で安全性能が確認済みであり、上階からの避難者が避難階に到着する以前に避難が完了することが考慮されたと思われます。ただし、避難階で出火した場合には、上階からの避難者が避難階の避難経路内で煙に曝されないことを検証します。
図2.jpg

 上図の計画で、避難時間判定法では、上階の在室者は階段(2)を通じて直接地上に避難できるため必ずしも避難階の在館者と合流する必要はありません。よって、避難階で出火した場合に、上階の在館者が廊下(1)で煙に曝されないことを検証する必要はありません。これに対し、煙高さ判定法では、このような計画であっても、建物全体の在館者の避難完了時の廊下(1)での煙高さが1.8m以上であることを検証します。

 避難時間判定法には、ちょっと想像力を働かせれば気付くような抜け穴が少なくありません。設計者たるもの、こうした問題点にいち早く気付き、然るべき対策を講じなくてはならないはずです。しかし、設計者の多くが見て見ぬふりをし、逆にそうした抜け穴を悪用しコスト優先の計画を進めることになってしまいました。その結果、煙高さ判定法では、問題のある検証結果が生じにくいような工夫がされましたが、検証方法は一段と複雑になりました。詳細について、引き続き読み解いていきたいと思います。次回は全館煙層下端高さの解説です。

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