Column避難安全検証法使いこなし術

(5)告示計算式の傾向を知ろう【ルートB1 居室計算】

2023/02/02

DSC_5733-1.jpg

 居室検証で安全性能を確認するためには、居室避難完了時間が居室煙降下時間より短くなるようにする必要があります。居室避難完了時間と居室煙降下時間は設計上の複数の条件によって変化するため、安全性能を満たす条件を逆算によって求めることは難しく、最適解を引き出すには試行錯誤を重ねるしかありません。
 しかし、闇雲に設計条件を変えるだけでは時間がかかるだけです。まずは告示計算式の傾向を知ることが最適解への近道です。

避難完了時間の要は有効出口幅

 室面積によって避難完了時間、煙降下時間がどのように推移するか見てみます。下図のような正方形の室とし、X1X2が同数値で変化するものとします。出口は有効幅1,500mm1ヶ所、内装不燃、天井高3,100mm、用途事務所(0.125/㎡ 560MJ/㎡)として、避難完了時間と煙降下時間の変化を見ます。

説明図面.jpg

グラフ1.jpg

 室面積が大きくなるに従い、避難開始時間・歩行時間・煙降下時間の伸びは1次関数的ですが、出口通過時間は2次関数的に長くなります。また、避難開始時間と歩行時間の傾きの合計は煙降下時間の傾きより小さく、これらの要素は安全性能に影響がないことを示しています。よって、安全性能を確認する上で最も重要な要因は、出口通過時間であることがわかります。
 出口通過時間が2次関数的に長くなるのは、火災の影響により有効出口幅(Beff)が小さくなることが原因です。この例では室面積が概ね64㎡を超えた辺りから影響がみられます。Beffは、積載可燃物の発熱量・内装の種類・室の形状(最遠点から扉までの歩行時間)によって変わります。対策として、煙降下時間が避難完了時間より僅かに短いのであれば天井高さを上げればよいのですが、大きな差がある場合は扉を追加することで出口通過時間を短くしなくてはなりません。要するに面積の広い室には複数の扉を設置する必要があるのです。

煙降下時間は積載可燃物の発熱量で決まる

 では、積載可燃物の発熱量による違いを見てみましょう。室面積100㎡、内装不燃、天井高2,700mmとして積載可燃物の発熱量による煙発生量と煙降下時間の変化を確認します。

グラフ2.jpg

 積載可燃物の発熱量が大きい程、煙発生量は多くなります。ここで注目すべきは、積載可燃物の発熱量の値が小さいうちは、それが僅かな差であっても煙降下時間が大きく変わることです。検証でよく用いられる積載可燃物の発熱量は160~560MJ/㎡です。従って、形状が同じ室であっても、室用途の違いで安全性能に違いが生じることになります。

最も煙降下時間が長くなる天井高さは5.7m

 次に、平均天井高さによる煙降下時間の変化を見てみます。以下のグラフは、無排煙の時、平均天井高さと煙降下時間の関係を3つの発熱量で示したものです。いずれの発熱量の場合も平均天井高さが5.7mに煙降下時間は最大になり、それ以上平均天井高さを上げると、かえって煙降下時間は短くなります。
 煙発生量の増加が蓄煙体積の増加に5.7mで追いつき、それ以上になると煙発生量の増加分が蓄煙体積の増加を超えるためです。

グラフ3.jpg

火災室の排煙設備はあまり効果がない

10m×15m 150㎡ CH2,600mm 内装準不燃 事務室(560MJ/)
避難完了時間と比較するために、有効幅800mmの建具を2ヶ所設置(Neff90で固定)

条件(1):無排煙

Tstart Ttravel Tqueue Tescape Ts 判 定
0.4083 0.1988 0.1841 0.7912 0.6849 NG

無排煙ではNGとなりました。

条件(2):仕様規定で求められる排煙設備(6m×0.5m)を天井いっぱいに設置

Tstart Ttravel Tqueue Tescape Ts 判 定
0.4083 0.1988 0.1841 0.7912 0.7543 NG

仕様規定の排煙窓を設置しても安全性能は確認できません。

条件(3):条件(2)に加えて給気口(2m×0.6m)を床から設置

Tstart Ttravel Tqueue Tescape Ts 判 定
0.4083 0.1988 0.1841 0.7912 0.7996 OK

給気口を設置することで安全性能が確認できました。

 避難安全検証法を利用したからといって、必ずしも仕様規定で求められる設備を減らせるわけではありません。積載可燃物の発熱量が小さな室では、無排煙にできる可能性は高くなりますが、避難安全検証法は無排煙にすることが目的の法律ではありません。真の安全性とは何か、本当に重要なことは何かを踏まえ、適切な条件で正しく運用してください。

 以上、告示計算式の傾向について述べました。実際の計画では様々な条件が絡み合い、とても一筋縄では行かないでしょうが、試行錯誤を繰り返す中で、ぜひ参考にしていただき、さらに経験を積み重ねて欲しいと願います。

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