Column避難安全検証法使いこなし術

(8)室用途による違いを理解しよう【ルートB1 居室計算】

2023/05/01

表紙写真(8).jpg

 コラム「(2)避難安全検証の感覚を身につけよう」では、仕様設計で問題がない計画でも、避難安全検証法を利用すると安全性能が確認できなくなる場合があることを解説しました。ここではさらに議論を進め、室用途による検証結果への影響について解説します。

室用途の違いが検証結果に及ぼす影響

 避難安全検証法では、室の形状や出口等の条件が同じであっても、室用途によって在室者密度や積載可燃物の発熱量が異なるため、検証結果が違います。以下、同じ条件の室について、室用途を変えて結果を比較してみます。

【共通条件】
 室面積:150㎡
 天井高さ:2,800mm
 内装:準不燃
 歩行距離:22m
 室出口の有効幅1.5m(滞留は起こらないものとしNeff=90人/分・m固定)

図(1).png

検証条件は室用途により以下のように違います。

室用途 在室者密度 積載可燃物の発熱量 歩行速度
事務室 0.125 560 78
事務室付属の会議室 0.125 160 78
小規模の会議室 0.7 160 78
簡易な食堂 0.7 240 60
店 舗 0.5 480 60

【検証結果】

室 名 避難開始時間 歩行時間 出口通過時間 避難完了時間 煙降下時間 判 定
事務室 0.4083 0.2821 0.2510 0.9414 0.7889 NG
事務室付属の会議室 0.4083 0.2821 0.1389 0.8293 1.2790 OK
小規模の会議室 0.4083 0.2821 0.7778 1.4682 1.2790 NG
簡易な食堂 0.4083 0.3667 0.8269 1.6019 1.1332 NG
店 舗 0.4083 0.3667 1.0138 1.7888 0.8493 NG

 安全性能が確認できたのは「事務室付属の会議室」のみという結果になりました。
検証結果の違いの原因を探ってみます。

・避難開始時間
 用途に関わらず室面積によって計算されますので、どの用途も同じ結果になります。
  避難開始時間.jpg
・歩行時間
 歩行距離は同じなので、用途による歩行速度の違いが結果に影響します。
  歩行時間.jpg

 歩行速度は、主に建物に慣れた特定の人が利用する用途では78m/分、不特定多数の人が利用する用途、就寝用途がある用途では60m/分、不特定多数の人が高密度で利用する用途では30m/分とします。
 計算例では、簡易な食堂、店舗用途の場合、歩行速度が60m/分と遅いので歩行時間が長く算定されています。

・出口通過時間
 滞留は生じないとしてNeff(有効流動係数)は90と固定し、扉の有効出口幅も同じなので、在室者数の違いが結果を左右するだろうと予想されます。ところが

 ○事務室と事務室付属の会議室の在室者密度は0.125人/㎡、在室者数18.75人
 ○小規模の会議室と簡易な食堂の在室者密度は0.7人/㎡、在室者数105人

 それぞれ在室者は同数なのに出口通過時間は同じではありません。また、店舗の在室者密度は0.5人/㎡、在室者数75人と、小規模の会議室や簡易な食堂よりも少ないのに、出口通過時間は長く算定される結果となっています。コンサルタントユーザーから計算間違いではないかとよく指摘を受ける部分です。
 これは、火災の拡大による扉の有効出口幅の縮小が影響しているのです。
 計算式で確認してみましょう。
  出口通過時間.jpg

 分子は在室者数です。有効流動係数Neffは本検討では90で固定しているので、計算結果の違いの原因となるのは、Beff=避難に利用可能な有効出口幅です。
 有効出口幅の算定は、避難に利用される最大幅の扉に対して横に1m離れたところでの火災を想定し、火災の範囲が1mまで拡大するまでの時間と在室者が対象の出口までに至る時間(treach(room))を比較します。火災の範囲が1mを超えるまでの時間の方が長ければ全ての扉幅を利用して避難可能とし、そうでない場合は、火災の拡大による避難可能な扉幅を計算で求めます。
有効出口幅.png

 詳細は今後のコラムで改めて解説いたしますが、簡潔に述べるとBeffは、積載可燃物の発熱量と歩行速度や歩行距離の違いにより差がでます。積載可燃物の発熱量が大きい程、火災拡大スピードは早くなり、歩行速度が遅く歩行距離が長い程、在室者が出口までに至る時間が長くなるからです。

・避難完了時間
 避難完了時間は、避難開始時間+歩行時間+出口通過時間で求めるため、用途の違いによる差が蓄積された結果となります。比較例では、0.8293分と事務室付属の会議室が最も短く、最も長い1.7888分の店舗と大きな差ができました。

・煙降下時間
 煙発生量と蓄煙体積によって算定されます。今回の例ではどれも同じ寸法の室なので、煙発生量の差、すなわち結果の違いとなります。煙発生量は内装の種類と積載可燃物の発熱量により、積載可燃物の発熱量が大きい程煙発生量は大きくなります。

安全性能を確認できるようにする対策

 室用途を変えた比較例では、事務室付属の会議室以外の室では安全性能を確認できない結果となりました。では、どのような設計変更が効果的かを検討してみましょう。検証結果の違いを評価しやすいよう、基本的設計はそのまま、室の平面形状等は変えないことを前提とします。
・避難完了時間を短くするには、以下の方法が考えられます。
 (1)内装を不燃とし、火災拡大の影響を受けにくくする。
 (2)出口幅を広げ、早く逃げられるようにする。
・煙降下時間を長くするには、以下の方法が考えられます。
 (1)内装を不燃とし、煙発生量を抑える。
 (2)天井高さを上げ、蓄煙体積を増やす。
 (3)排煙設備の設置。
 では、避難完了時間の短縮と煙降下時間の延長の両方に効果的と考えられる、内装の種類を不燃にする方法で確認します。

【検証結果】

室 名 避難開始時間 歩行時間 出口通過時間 避難完了時間 煙降下時間 判 定
事務室 0.4083 0.2821 0.2290 0.9194 0.8150 NG
事務室付属の会議室 0.4083 0.2821 0.1389 0.8293 1.5133 OK
小規模の会議室 0.4083 0.2821 0.7778 1.4682 1.5133 OK
簡易な食堂 0.4083 0.3667 0.7778 1.5528 1.2618 NG
店 舗 0.4083 0.3667 0.9039 1.6789 0.8849 NG

・出口通過時間
 事務室付属の会議室と小規模の会議室は、積載可燃物の発熱量が小さく火災拡大の影響は受けないため、変化はありません。簡易な食堂は火災拡大の影響を受けなくなりました。他の用途は火災の影響はあるものの避難に利用できる有効出口幅が広がりました。

・煙降下時間
 全ての用途で、長くなりました。

 事務室、簡易な食堂は、僅かな差でNGとなっているので、天井高さを上げて蓄煙体積を大きくすれば安全性能を確認できそうです。ところが、店舗は、出口通過時間が煙降下時間より長く、扉を増やす必要があります。全ての用途で安全性能を確認できるように調整した対策と結果を示します。

【対策】

室用途 対 策
事務室 天井高さ2,800 → 3,100
簡易な食堂 天井高さ2,800 → 3,300
店 舗 天井高さ2,800 → 3,000 W1.6の扉を追加設置


【検証結果】

室 名 避難開始時間 歩行時間 出口通過時間 避難完了時間 煙降下時間 判 定
事務室 0.4083 0.2821 0.2290 0.9194 0.9417 OK
事務室付属の会議室 0.4083 0.2821 0.1389 0.8293 1.5133 OK
小規模の会議室 0.4083 0.2821 0.7778 1.4682 1.5133 OK
簡易な食堂 0.4083 0.3667 0.7778 1.5528 1.5603 OK
店 舗 0.4083 0.2229 0.3070 0.9382 0.9811 OK

 すべての室で安全性能が確認できました。以上、効果的な対策は室用途によってそれぞれ異なることがご理解いただけたと思います。

告示に室用途が明確に示されていない室への対応

 告示に室用途が明確に示されていない室には、その他これらに類する用途として在室者密度と積載可燃物の発熱量を設定する必要があります。在室者密度は、設計時に想定する利用者数を下回らないように告示に示された在室者密度を選択します。積載可燃物の発熱量は、室内に設置される燃え草の量です。実際どのように利用される室かを明確にすればおおよそ想定可能です。もし、想定が難しい場合は、建築学会発行の書籍等に記載されている用途毎の発熱量実測データを参考にすればいいでしょう。
 ポイントは、告示に示された室名称に左右されないことと、在室者密度や積載可燃物の発熱量等の数値を必ずしも同じ用途で設定する必要がないことです。一例として、告示に示されてない「休憩室」について考えてみましょう。「休憩室」の在室者密度は「住宅以外の寝室」同等と考え0.16人/㎡とします。一方で積載可燃物の発熱量は「事務室付属の会議室」同等と考え160MJ/㎡とします。この時、歩行速度についても、在室者密度に「住宅以外の寝室」の数値を設定したからといって寝室として使われることはないので78m/分として問題ありません。

ポイントを押さえて避難安全検証法を使いこなそう

 避難安全検証法(ルートB1)の基本は避難完了時間と煙降下時間の比較です。その際、重要なのは、室の形状を除けば在室者数と積載可燃物の発熱量の2点です。これらは室用途によって決定され、告示に明確に示されています。したがって、数値等記憶に頼る必要はなく、決して難しいものではないはずです。
 それなのに避難安全検証法は難しい、面倒で自分では使いこなせないと敬遠されがちです。それは、あまりにも複雑な検証計算のせいだと考えています。避難安全検証計算を紙と電卓で行うためには、相当の時間を費やして計算方法を理解し、暗記して瞬時に計算ができるよう訓練が必要だからです。
 みなさんが利用されている防災コンサル業者のスタッフは、全員、避難安全検証法について専門の訓練を受けているでしょうか。検証法が利用されはじめた初期の頃は、そうだったかもしれませんが、今はそうではないと思います。なぜなら、彼らも、既存の汎用ソフトのプログラミング機能を利用して、株式会社九門が開発したSED同様のシステムを社内向けに開発し、利用しているからです。行っている作業は提示された図面から検証に必要な数値を抽出し、データとしてコンピュータに打ち込んでいるだけです。建築図面が読みさえすれば防災専門の勉強をしていない学生アルバイトでも可能な作業です。あとは、押さえるべきポイントを押さえ、正しく使いこなすこと。これは設計者であるあなた自身でないとできないことです。

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