Column避難安全検証法使いこなし術

(10)歩行経路の考え方【ルートB1】

2023/07/01

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 避難安全検証法での避難は、利用できる扉を全て利用して一様に避難することを前提とし、階歩行時間・階出口通過時間・階煙降下時間は出火室毎に比較するのではなく、出火室毎の結果の中で最も長い避難完了時間(避難開始時間+歩行時間+出口通過時間)と最も短い煙降下時間を比較します。これらは計画上の避難方向や実際に火災が起こった時の避難行動とは必ずしも合致しないため、常識に頼って考えてしまうと答えを出せなくなります。
 歩行経路も同様です。避難安全検証法での歩行経路は、出口まで最も時間がかかる在室者が出口に到達するまでの歩行時間を求めるために作成するもので、避難計画の経路を示すものではありません。避難安全検証法では、誰が検証を行っても同じ結果になるよう単純なルールに従って考える必要があります。下に示す計画で解説します。

例題.jpg

居室からの避難

 当該居室で出火を想定して、階出口に通ずる全ての扉を利用して避難が行われると考えます。居室(1)の場合、居室(3)につながるD13を除いた全ての扉が階出口に通じているので、それら全ての扉に向かって避難が行われるものとします。扉によって接続先が他の居室・廊下・屋外等異なっても、区別せず同等に扱います。経路は、それぞれの扉による垂直二等分線で領域分割した範囲で最長歩行時間となるところを起点とし、壁面に対して垂直平行に引きます。

領域按分.jpg

居室(1)の経路は以下のようになります。
居室(1)経路.jpg

壁面に家具が置かれることを想定して経路は壁面から1.0m離して引きます。また、居室(1)の居室内居室となる居室(3)からの経路はD13からは同じ領域に設置されているD14へ避難するものとします。経路は、障害物によって出口まで直線で進めないことを考慮して、壁面に対して垂直平行に引きますが、家具等によって大回りをする必要がある場合は、以下のように考慮します。

障害物.jpg

5本の経路が引かれました。この中で最も長い経路を居室(1)の歩行経路として採用して歩行時間を算定します。
同じルールで居室(2)の歩行経路を引いてみましょう。


居室(2)経路.jpg

 ここでいくつか疑問が生じます。まず、D12は居室(1)からの経路とぶつかります。居室同士が連続して接続されている場合に出火室によって避難方向が変わるのはおかしいのではないか?これについては、歩行経路はあくまで検証対象の居室での出火を想定して引くため、問題ありません。実際、居室(2)で出火した場合に居室(1)から居室(2)に避難する在室者はいないでしょうし、その逆もあり得ないでしょう。疑問点のもうひとつは、D15を通じて直接廊下(2)に至る経路とD16を通じて居室(5)を経由して廊下(2)至る経路です。大きな居室(2)からわざわざ小さな居室(5)を経由するルートには、室の大きさや配置から不自然さを感じてしまいます。しかし、これも問題ありません。物理的な繋がりとしては、前述の居室(2)から居室(1)を経由して廊下(2)に達する経路と何ら変わりはありません。
 以上、5本の経路が引かれました。この中で最も長いD2へ向かう15.91mの経路を居室(2)の歩行経路として採用して歩行時間を算定します。
 同様に他室にも歩行経路を引き、それぞれ最長ルートから歩行時間を算出します。

一様に経路を引くことに納得がいかない

 先の例のように居室(2)から居室(5)に向かう経路に納得がいかないのであれば、D16を避難に利用しないようにしても構いません。その場合、出口通過時間の算定にもD16を利用しないようにします。すると、居室(2)の避難完了時間はD16を利用するより長くなり、厳しい検証になります。また、階全体の検証でも居室(2)からD16を利用した歩行経路は引かないようにする必要があります。
 ただし、告示には扉に対して避難方向という考え方はなく、室と室の繋がり関係だけで居室内居室が決められます。例えば下図のような計画で避難方向を決める際、一般的な告示解釈を超えた判断が必要とされます。
居室内居室.jpg

 一般的な解釈では、室(2)から室(3)方向へ繋がる開口部が設置されていれば室(2)の在室者は必ずしも室(1)を通る必要はないため、室(2)は室(1)の居室内居室となりません。ところが、避難安全検証法の基本的な考え方によると、室(2)から室(3)方向へ開口部が設置されているにも関わらず避難が制限される場合、室(2)在室者は必ず室(1)を通らなければ避難できないため、室(2)は室(1)の居室内居室と考えることになります。
 避難方向を考慮した検証は告示に示されていないので、大臣認定(ルートC)であれば問題ないでしょうが、通常の確認申請では認められない可能性があります。厳しい検証を行ったのに認められないことはなかなか納得し難いでしょうが、避難安全検証法では、第三者による検証でも同じ結果が得られるよう、個々の避難方向についての細かな判定は求めず物理的な繋がりのみで判定されます。

階全体からの避難

 階全体からの避難経路は、出火室毎に火災から遠ざかる方向に避難するように考えます。居室検証の経路では全ての扉を利用して経路を考えましたが、階全体からの経路を引く場合、出火室に設置される階出口(避難階では地上への出口、非避難階では階段への出口)のうち1ヶ所は火災により利用できないものとします。
居室(1)で出火した場合の階歩行経路は以下のようになります。
階避難経路(1).jpg

 D1は階出口ですから利用できないものとします。避難はD10D12D14を利用して行われます。また出火室以外の室は出火室には向かわない経路で階出口に向かうと考えます。すると、居室(1)で出火したときは、居室(1)を起点に居室(2)を通ってD2扉に向かう41.97mの経路が最も長くなります。
 同様に居室(2)で出火した場合は以下のようになり、居室(2)を起点に居室(5)を通って廊下(1)D4に向かう50.49mの経路が最も長くなります。
階避難経路(2).jpg

全ての出火室での経路を検討し、最も長い経路をこの階の階歩行経路として採用します。

 告示には、階経路をどのように引くべきかルールは示されていません。上の例は比較的単純なプランなので、感覚で経路を引けると思います。しかし、複雑なプランになると感覚だけで引くのは難しくなります。そのため、一定のルールを設けた上で一旦経路を引き、感覚的に納得できない部分を修正するのが良いでしょう。

引き方のルールについては個人差があると思いますが、筆者は以下のように経路を引いています。
(1)ΣAarea(ΣAfloor)またはAareaに含まれない室へは向かわない
 これらの室は火災情報伝達が必要ない室で、検証の対象外となります。よってそのエリアには入らないものと扱いま
 す。
(2)出火室に階の出口がある場合、最大有効幅の出口は使用できないものとする
 告示に示されているルールです。複数の同じ幅の扉が設置されている場合、歩行時間が最も長く算定される扉を使用
 できないものとします。
(3)避難階において階出口が設置された階段室からは屋内側には向かわない
 上階からの避難経路はD2扉から室1内を通ってD3扉に避難可能ですが、階段(1)には地上に通ずる扉が設置されていま
 すので、屋内側には向かいません。
階段経路(2).jpg

(4)避難階において階段室を通じて避難しない
 室1から階段(1)を通じて避難可能なルートがありますが利用しません。
 告示には明確には示されていませんが、避難階での階段内の滞留の評価方法が示されていません。上階からの避難者と
 合流して滞留が生じる可能性があります。
(5)他の室から階出口を有す室に到達したら、避難経路等室(第一次安全区画)と接続していても階出口へ向かう
(6)複数の避難方向がある場合、出火室毎に下記の方法で避難次数を計算した上で避難方向を考える
・階出口が設置されている室、及び避難経路等に設定されている室を0に設定
 階出口が出火室の場合、出火室を通しての避難はできないので、出火室からの避難次数は考えません。
・部屋を超えるたびに+1とする
 ただし、出火室の室内室以外は出火室を超えてカウントしません。
・出火室から複数のルートがある場合はそれぞれの次数を計算し、小さいほうを避難次数とする

 上記のルールで避難次数を決定した上で、以下のルールで経路を引きます。
 ・出火室
  避難方向は避難次数にかかわらず利用できる全ての扉を利用した方向へ向かいます。
 ・非出火室
  避難次数の小さい方向へ向かいます。

 以上のように、歩行経路の作成にはたくさんのルールが必要で、これら全てを間違いなく行うのは大変な作業になると思います。また、階歩行経路は考え方の違いによって大きく変わる可能性があります。実際の検証では、歩行経路の厳密性よりも、煙降下時間と避難完了時間の差に少し余裕を持たせるようにすれば良いと思います。例えば、歩行速度78m/分の建物であれば0.5分余裕を持たせると、仮に歩行経路が39m長くなったとしても安全性能に影響はありません。
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