Column避難安全検証法使いこなし術

(12)避難時間判定法をわかりやすく解説「避難安全検証法 実践マニュアル」出版

2023/09/01

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 避難時間判定法(時間判定法)に関する解説書「避難安全検証法実践マニュアル」を上梓します。前著「避難安全検証法設計実務ハンドブック」から18年、避難安全検証法(時間判定法)利用に必要な最低限の知識から応用まで、そして、防災計画上の問題点について、わかりやすく詳細に解説しています。避難安全検証法を使いこなしたい、使いたいがよくわからない、計算はしてみたものの確認申請を出したらたくさん指摘されるのではないかと心配、といった方々に役に立つ情報を満載しました。
 同時に、いささか辛口な私見も述べさせてもらいました。設計士の多くは建築設計に夢を託してこの仕事を選んだはずです。施主の要望に応え、安全で使いやすい建物を作ろうと、真っ正直に設計をしています。誰も最初から虚偽や誤魔化しで確認審査をパスしようなどとは思っていません。それなのに、確認審査での理解困難な指導や法解釈は、そういった設計士の心をくじいてしまいます。検査機関で審査に携わる方にはやや耳の痛い内容かもしれませんが、だからこそ、読んでいただきたいのです。そして審査を受ける側がどのように感じているのかご理解いただければ幸いです。

前著「避難安全検証法設計実務ハンドブック」とは

 避難安全検証法を扱う初めてのソフトAvoid(株式会社ビーイング)の開発に参加した時、初めての性能設計の基本を勉強しながら告示1441(現告示510)に制定に携わった方々から得た知識や仕様設計からみた疑問点をまとめました。主として避難安全検証法の基本事項を解説した入門書です。既に絶版となっており一般書店では流通していませんが、コピー製本による再刊にて直接販売しております。

プログラム開発を通じて

 株式会社九門が開発したSEDは、防災コンサルタント20年間の経験実績と知識の集大成です。避難安全検証法の計算ソフト開発でもっとも重要なのは法律と告示の解釈です。法律は性能設計の基本を示し、告示はモデルとなるプランをベースに実際の検証方法が示されています。しかし、全ての設計がモデルプランに合致するものではありません。手動で計算するなら、時間はかかりますが1つ1つ方法を考えながら法律が求める検証をまとめていくことも可能です。しかし、ソフトウエアで自動計算を行う場合、あらゆるパターンに対応できるよう予めプログラミングしておく必要があります。特に法律が想定していないパターンをどう扱うかが重要課題となります。
 設計パターンはコンサルティングで得た実際の設計図を元にデータ収集し、検証方法を試行錯誤しながら最適解を見つけていく必要がありました。この過程で最も大きな問題は、答えは一つではないということでした。法律は扱う人によって捉え方に違いがあります。しかしプログラムが出せる答えは1つしかありません。複数の答えが想定される時にはユーザーの求める答えを選択できるようにする必要がありました。本書では、開発過程で得られた検証解釈の知識のすべてを紹介しています。

コンサルティングを通じて

 20年を超えるコンサルティングを通じ、様々な考え方による設計や検査機関の解釈を収集できたことは、SEDの開発に実に役立ちました。同時に避難安全検証法を扱う難しさも痛感しました。避難安全検証法が施行されて23年経過し、多くの建物に利用されるようになってきました。しかし、その多くは設計者が積極的に検証チェックを行ったものではなく、検証申請書作成代行業者に依頼したもののようです。避難安全検証法は扱う人によって法律の捉え方に違いがあり、仕様設計では問題にならなかった些細なことが結果に大きく影響することがあります。避難安全検証の経験の少ない設計者は自分の判断に自信がないため、外部の経験豊富な業者に頼りがちです。しかし、検証申請書作成代行業者の多くは、建築防災事務所等と謳いながら防災設計に関する知識や安全性の高い設計に誘導する能力については甚だ疑問です。彼らは確認審査で指摘されやすいポイントを熟知しており、それに合わせた申請書を要領よく作成するテクニックに優れているだけのように思われます。また、代行業者に依頼する時期はある程度設計が進んだ状態です。すると依頼された代行業者も防災上問題となる部分を見つけたとしても指摘することなく、あくまで設計図面ありきで確認審査をパスする方法を提案するにとどまってしまうのです。
 設計士のみなさん、これでよいのでしょうか?あなたは設計の専門家としての責務を果たせていますか?
 今後、避難安全検証法を採り入れた設計は主体となっていくでしょう。仕様設計が併用される今こそ、学びを深めるチャンスです。近い将来、あなた自身で避難安全検証法を使いこなせるように、ぜひ「避難安全検証法実践マニュアル」をご活用ください。

書籍「避難安全検証法実践マニュアル」の一部を紹介します。

はじめに
 2000年に避難安全検証法が施行されて20年以上が経ちました。いろいろな建物の設計に利用されるようになり、街を歩いても、それとわかる建物を見かけます。特に、郊外型の中小規模店舗では、新築の建物のほぼ全てに利用されているように思われます。
 しかし、多くの設計者にとって避難安全検証法は単なるコスト削減の手法と受け止められており、法の盲点を突いた設計や、避難安全検証法の理解不足からくる不適切な設計も多く見られます。
 避難安全検証法は、設計者が防災計画の基本を理解した上で利用されることを前提として作られています。正しい防災計画を立てずに、計算だけを成立させた計画ではかえって危険な設計となってしまいます。そういった計画に対し、本来は建築検査機関や行政が問題点を指摘する立場であるはずです。ところが、防災計画評定がなくなった現行法規では、彼らにはそこまでの責任と権限は与えられていません。その結果、非常に不安全な建物が建設されています。また、審査者の知識不足や思い込みによる指導指示や、地域や検査機関による解釈の相違が、避難安全検証法の運用そのものに混乱を生じさせているように思われます。
 本書では、避難安全検証法を正しく理解し、有効に活用していただくために、防災計画の基本から避難時間判定法(ルートB1)の基本的な流れと利用上のポイントについて解説します。また、新しく取り入れられた区画避難安全検証法についても触れています。なお、2021年5月に施行された煙高さ判定法(ルートB2)につきましては、後日改めて解説したいと考えております。
 そして、この20年間に2,600件以上の避難安全検証の申請業務に関わってきた筆者の経験から、実際の申請・審査場面での注意点や問題点を、実例を挙げて紹介します。また、建物の用途別に検証の要点を丁寧に解説し、実務に役立てていただけるよう構成しました。
 また、最終章では、筆者らが開発した避難安全検証法計算ツール「SED」について紹介しています。「SED」を利用すると避難安全検証法の計算が簡単になるだけでなく、仕様設計についても、防災上の問題点を洗い出すことができます。無料で体験できる試用版もありますので、興味をお持ちいただいた方はぜひ一度お試しください。
 避難安全検証法は、正しく扱う知識が身につけば、仕様設計では気付かなかった火災安全の盲点を明らかにでき、コストをかけずに安全性能の高い建物を実現できる優れた法律です。コスト削減のためだけでなく、仕様設計にも生かしていただきたいと思います。
 本書が、設計者、審査を行う技術者の一助になれば幸いです。

目  次

第1章 避難安全検証法(ルートB1)の基礎
1.避難安全検証法でできること
2.避難安全検証法が有効な建物
(1)主要構造部の制限
(2)避難安全検証法の制約
(3)適用用途
3.防災計画の要点
(1)ニ方向避難の確保
(2)避難経路の構成
(3)安全区画
(4)避難施設の防火防煙
(5)人間の心理、生理に配慮した計画
(6)障害者に配慮した計画
(7)避難計算
4.避難安全検証法(ルートB1)による安全性能の確認
(1)検証の流れ
(2)避難安全検証法の基本原理

第2章 階避難安全検証法(ルートB1
1.火災の発生のおそれの少ない室
2.居室検証
(1)居室検証の流れ
(2)計算の手順
3.階検証
(1)階検証の流れ
(2)計算の手順

第3章 全館避難安全検証法(ルートB1
1.全館避難安全検証の流れ
2.計算の手順

第4章 区画避難安全検証法(ルートB1
1.区画避難安全検証法とは
2.居室検証
(1)居室検証の流れ
3.区画検証
(1)区画検証の流れ

第5章 防災計画との比較

第6章 注意すべき点
1.仕様設計でも防災上の問題点を解決する避難安全検証法
2.法の理念は「煙に曝されずに避難できること」
3.理解に苦しむ法解釈
4.避難安全検証法の残念な状況
5.検査機関の審査担当者は必ずしも防災計画の知識があるわけではない
6.目先の利益のみが優先される今の日本社会
7.明日は我が身

7章 用途別避難安全検証法(ルートB1)の要点
1.郊外型ドラッグストア(小規模物販店)
2.スーパーマーケット(中規模物販店)
3.ホームセンター(大規模物販店)
4.自動車販売店(自動車ディーラー)
5.事務所(研究施設)
6.物流センター(仕分け作業を伴う倉庫)
7.工場
8.食品加工工場
9.避難安全検証法(ルートB1)の利用が難しい用途

第8章 避難安全検証法計算ツールSED
1.SEDの特徴
2.SEDの機能
3.申請書作成時の注意事項
(1)申請図面の整合性
(2)面積の求積
(3)在館者密度・積載可燃物の発熱量の根拠
(4)避難階で避難には利用できない扉
4.コンサルタントの活用
5.使用環境

 「避難安全検証法実践マニュアル」2023101日より、全国の有名書店、AmazonRakutenブックス・三省堂書店のPOD書店、弊社ホームページで販売いたします。今後、このコラムでも、書籍の内容について、SEDを用いた詳しい解説を加えていきます。書籍の中で示した計算をSED上で確認・実践することで、避難安全検証法の理解が進むと思います。
 株式会社九門が開発した避難安全検証計算ソフトSEDは、避難安全検証法の基本から応用技術まで、実務を通して学べます。ぜひ30日間無料トライアルをお試しください。

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