Column避難安全検証法使いこなし術

(13)避難安全検証法を形骸化した区画避難安全検証法【ルートB1】

2023/10/01

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 階避難安全検証法では、居室から階の出口まで煙に曝されずに避難できることが求められます。しかし、区画避難安全検証法では、居室1室を捉えてその室での火災による煙に曝されずに区画外に避難できればよく、他室での火災の煙に曝されるか否かは検証の対象から除外されてしまいました。区画避難安全検証法が施行された当時、説明図には区画内に居室から階出口に通じる廊下(避難経路)が示され、廊下での区画煙降下時間の算定が明記されていましたが、区画避難安全検証法が1室だけに適用できるかどうかは記載されていませんでした。ところが、2023330日一般財団法人日本建築センターから発行された「避難安全検証法(時間判定法)の解説及び計算例とその解説」P47P48に、区画避難検証法を1室だけに適用する場合の扱いが示されました。

「避難安全検証法(時間判定法)の解説及び計算例とその解説」より抜粋

(1)適用条件
区画避難安全検証法の適用条件を以下に示す。(詳細は「1.3「区画避難安全検証法(1)概要」を参照」。)
(a)主要構造部が準耐火構造であるか又は不燃材料で造られた建築物の区画部分である。
(b)区画部分とその他の部分とが準耐火構造の床若しくは壁又は法第2条第九号のニロに規定する防火設備(令第112条第19項第二号に規定する構造のもの)で区画されている。
(c)当該区画部分は、2以上の階にわたらない。
(d)区画部分が竪穴部分に面する場合には、出入口の部分を除き、区画部分と竪穴部分とを準耐火構造の壁又は法第2条第9号のロニに規定する防火設備(令第112条第19条第二号に規定する構造のもので、はめごろし戸であるもの)で区画されている。
(e)区画部分以外の部分に存する者は、区画部分を通らずに避難できる。

説明図(1).jpg

(2)区画部分の設定
(1)に示した適用条件を満足する範囲内であれば、区画部分を自由に設定できる。また図2.2-2に示すように、一の居室等(当該区画部分の各室において、当該区画部分以外の部分への出口を有する室(居室に限る)が一つである場合)に区画避難安全検証法を適用することも可能であり、その場合には、令2国交告第509号第三号(区画避難完了時間)、同第四号(区画煙降下時間)の算定を省略できる。ただし、その場合にも第三号の柱書に記載されている前提条件は適用される。尚、当該階が一の居室等で計画されている場合には、区画避難安全検証法と階避難安全検証法の何れかを選択することが可能である。前者を選択した場合には、適用除外が排煙と内装のみあることに注意が必要である。また、後者を選択した場合には、平屋一の居室等である場合を除き、令2国交告第510号第三号(階避難完了時間の計算)、同四号(階煙降下時間の計算)の計算を省略することはできない。

説明図(2).jpg

「避難安全検証法(時間判定法)の解説及び計算例とその解説」(日本建築センター)P4748より

防災計画を無視し、形骸化した検証法

 区画避難安全検証法で、無排煙としたい1室だけに避難安全検証法を利用できるようになった結果、避難安全検証法の「正しい防災計画に導く」という最も重要な使命が損なわれることになってしまいました。これは非常に残念なことです。
 また、避難階以外で区画外の階段を利用して避難する計画で、当該区画から区画外への有効流動係数の算定の際、区画外の在室者を考慮する必要もありません。階避難安全検証法では、居室Aの共用廊下への流出人数は、共用廊下を利用しなければならない区画外居室(A)、区画外居室(B)の在館者を含めて共用廊下の収容率に応じた有効流動係数によって計算します。共用廊下が混み合っている場合、有効流動係数は小さくなり避難に時間がかかる結果になります。ところが区画避難安全検証法では、共用廊下が合流する在館者を無視して当該区画の在館者数だけで有効流動係数を求めます。その理由は「当該区画部分に存する者と当該区画部分以外の部分に存するものとが同時に避難することはない」と説明されていますが、これは避難時間判定法の検証の基本に反していると思います。
 さらに、階避難安全検証法では、避難開始が遅れる在館者に合わせて全員が一斉に遅れて避難を開始するという前提で検証を行いますが、区画避難安全検証法では避難は個々に行われるとして検証方法が簡略化されます。果たしてそれでいいのか、甚だ疑問を感じます。

より正しい防災設計に誘導される煙高さ判定法

 避難時間判定法が、区画避難安全検証法によって防災計画を無視した設計を許容した結果、非常に危険な建物が乱立することになりました。その解決策として20215月に新たな検証方法として追加されたのが煙高さ判定法です。煙高さ判定法は防災計画の基本に従わないと安全性能の確認ができない非常によくできた検証方法です。
 しかし、煙高さ判定法の検証方法は複雑で、Excelシートの利用などで設計を進めることは困難です。避難安全検証法を利用する多くの設計者の目的は排煙設備の削減程度ですから、検証方法の簡単な避難時間判定法を選択するのは明白です。煙高さ判定法がいかに優れていようと、これでは施行した意味がありません。国土交通省が何を目指し、どのような建物を必要と考えているのか全く不明です。

法律が認めているから安全だとは限らない

 まだ記憶に新しい、京都アニメーション放火事件、大阪市北区ビル放火事件。たくさんの尊い命が失われた非常に痛ましい事件でした。報道によると、事件のあった建物は建築基準法に合致し、消防の定期点検も受けしっかり管理されていました。それにも関わらず多くの方が亡くなられたのは、放火による爆燃であったため逃げることができず、仕方がなかったとされています。では、通常の火災であったなら在室者の命は助かったのでしょうか。
 建築基準法は国家の発展と経済性の天秤の上で作られています。大規模な建物では、火災が起こると多くの在室者が危険に曝されるため、十分な対策が求められます。それに対し、小規模な建物は経済性が優先されて様々な緩和措置があり、大規模な建物では必須とされる安全性がやや欠けていても建設可能なのです。そう考えると、放火事件で亡くなられた方々は経済発展のための犠牲者とも云えるのではないでしょうか。
 避難安全検証法が施行される以前は、31mを超える建物や不特定多数の人が大勢利用する建物に関して、建築防災の専門家で構成される防災計画評定を受ける必要がありました。それが現在は、一部の自治体を除き、避難安全検証法が防災計画を誘導するので自然と安全な設計になるとして防災計画評定を受ける必要はありません。しかし、その避難安全検証法には多くの欠点があり、さらに前述のように形骸化してしまっているのが現状です。
 日本の建物の安全性能の最後の砦は建築士のみなさんなのです。今一度、火災安全について考えた上で設計を進めていただければと切に願います。
 設計ルートは、仕様設計(ルートA)、避難時間判定法(ルートB1)、煙高さ判定法(ルートB2)、大臣認定(ルートC)が用意されています。その中で建物規模に関わらず安全に設計コストをかけずに利用できるルートは煙高さ判定法(ルートB2)です。避難時間判定法(ルートB1)の欠点は是正され、防災計画評定で問題となるような計画は進められないようになっています。

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