Column避難安全検証法使いこなし術

(24)徹底解説「煙高さ判定法」 第8回 階出口通過時間(2)

2024/05/15

表紙写真.jpg

 煙高さ判定法(ルートB2)について、第7回の階出口通過時間に続き、今回は階出口通過時間の算定に最も重要な階出口滞留時間について解説します。文末に添付する告示475号と照らし合わせながらご一読ください。

階出口滞留時間法文解釈

 階出口通過時間は、階段への出口の幅に流動係数90を掛けた値(1分当たりに通過できる人数)と階段幅と階段内の流動係数を掛けた値を比較して、小さい方の通過人数を階出口滞留時間とします。計算式自体は非常にシンプルですが、告示の表現に惑わされやすいため注意が必要です。また、用途が児童福祉施設等(通所のみにより利用されるものに限る。)では、流動係数は1/2になります。

tcrowd(floor)
当該階の各室等の用途及び当該避難経路上にある当該階から直通階段への出口の幅の合計に応じ、それぞれ次の表に掲げる式によって計算した階出口滞留時間(単位 分)
表1.jpgBfloor

当該避難経路上にある当該階から直通階段への出口の幅の合計
 この書き方では避難経路となる廊下に設置された複数の階段のそれぞれの扉幅を合計するようにも思えますが、算定式を読むと階段は1つでなければ計算ができません。「直通階段への出口の幅の合計」とは1階段に複数の扉が設置されている場合を指していると考えられます。避難時間判定法では1つの階段に複数の扉が設置されている場合の扱いが示されておらず、設計者や検査機関によって解釈にバラつきがあることへの対応だと思われます。

Rst(floor)
次の式によって計算した当該避難経路上の直通階段の有効流動量
 式1.jpg

Dst(floor)
当該直通階段の幅

Nst(floor)
当該直通階段の種類、避難の方向及び当該直通階段の幅に応じ、それぞれ次の表に掲げる式によって計算した当該直通階段の流動係数
表2.jpg

・付室ありの場合
 流動係数が大きいため、他階からの避難者の影響を受けません。また、踊場幅と階段幅の比率によって以下のグラフに示すように流動係数は低下します。
グラフ.jpg 仕様設計で有効幅1,200mmの階段を設計する場合、踊場幅、階段幅の両方が1,200mmより小さくならないことだけを考慮します。ところが、踊場幅1,200mm、階段幅1,400mmとした場合、基準法上の階段幅は1,200mmとなりますが、検証法上では踊場幅、階段幅共に1,200mmの場合と比較して有効流動係数が小さくなってしまいます。これは経路の途上で経路幅が広がった後に狭まると返って流動係数は小さくなることを検証に取り入れたためです。

・付室なしの場合
 3階建て以上で流動係数は付室ありの場合の半分以下に低下します。煙高さ判定法では、階段の形状や繋がる階数により階段内で滞留することが考慮されて避難完了時間が長くなります。すると同時に煙層下端高さは低くなります。避難時間判定法で建物の耐火性能を超える極端に長い避難完了時間となる設計であっても計算上の煙降下時間を長くすることができ、安全性能が確認できたものと判定される問題に対応したものと思われます。

Pfloor
次の式によって計算した当該階に存する者のうち当該避難経路上にある当該階から直通階段への出口を通って避難する者の数
 式2.jpg

p
第一号に規定する在館者密度(単位 人/㎡)

Aarea(floor)
当該階の各室等の各部分の床面積(単位 ㎡)

Bfloor
当該避難経路上にある当該階から直通階段への出口の幅の合計(単位 m)

Bload(floor)
当該階から直通階段への出口の幅の合計(単位 m)

N'
当該建築物の階数
N'は、階段内の滞留を評価する時に利用する数値で、3以上の値で計算に影響します。2階建ての建物では、階段は2階の在館者専用となるため他階からの流入を考慮する必要はありません。また、地上階の在室者と地下階の在室者は階段内で交わらず別々にカウントします。地下の場合は地上1階が建物の出口階となるため、地下1階建ての場合は2となることに注意します。

避難時間判定法との違い

 煙高さ判定法では、避難時間判定法の解釈に混乱を招いていた、階出口が設置される室で出火した場合に出火室に設置される最大幅の階出口は利用できないものとする規定がなくなりました。
 避難時間判定法では、居室計算の時は、最大幅の出口近傍での火災で想定される輻射熱によりその出口には近づけないことを考慮し有効扉幅(Beff)を決定します。ところが階計算の時は、火災室に設置される階出口の中で最大幅の扉は無条件で利用できないものとして検証します。このように、居室計算と階計算で出口の扱いが変わるため、どのように避難シナリオを想定すればいいのか考えれば考えるほど理解できない状況を作っています。
 これに対し煙高さ判定法では、出火室毎に安全性能の確認を行い、居室計算時と同じ条件を階計算に利用するという、繋がりを持たせる検証方法になっています。
 また、避難行動についても、避難時間判定法では、居室計算は出火室以外の在室者も出火室の在室者と同時に避難を開始する前提で避難経路部分の混み具合を判定し、扉の有効流動係数を算出して出口通過時間を求めます。階計算では、出火室以外の在室者の避難開始は遅れるものとするので、計算フェーズによって前提が違い理解を難しくしています。
 煙高さ判定法では、居室計算は、新建築防災計画指針と同様に出火室以外の在室者の避難開始は遅れ、出火室の在室者と一緒に避難することはないとし、避難途上のボトルネックを捉えることによって出口滞留時間を算出します。避難開始時間は、出火室以外の在室者の火災情報伝達の遅れを加算することによって、居室計算、階計算とも同じ算定式を利用して求めます。居室計算と階計算を同じ前提の上で検証を進めるため、避難時間判定法と比較して理解しやすくなっていると思います。

 このように、避難時間判定法と煙高さ判定では、避難完了時間を算出するについても全く違う方法で求めるため違う結果となります。この方法は、避難完了時の煙層下端高さを求め、避難が困難になる1.8m未満になっていないことを確認する方法とすることで実現しました。
 その階煙下端層高さの算定方法を、いよいよ次回からこのコラムで解説いたします。算定方法はもちろん考え方も避難時間判定法とは大きく異なります。避難時間判定法では、扱う人の理解不足や告示の盲点を突くことで、表面上安全性能が得られたかのように見えてしまう非常に危険な検証が少なくありませんでした。煙高さ判定法には、そうならない工夫が随所に織り込まれています。どうぞご期待ください。

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