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(25)徹底解説「煙高さ判定法」 第9回 火災室隣接部分の煙層下端高さ(1)

2024/06/01

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 お待たせしました。これより3回にわたり「煙高さ判定法」階煙下端層高さの算定方法について解説します。今回は、階避難完了時の火災室隣接部分の煙層下端高さの算定の流れについて述べます。文末に添付する告示475号と照らし合わせながらご一読ください。

階煙層下端高さ法文解釈

令第129条第32号ハに規定する同第12の規定によって計算した階避難完了時間が経過した時における当該火災室において発生した火災により生じた煙等の当該階の各居室(当該火災室を除く。以下この号において同じ。)及び当該居室から直通階段(当該居室が避難階に存する場合にあっては地上)に通ずる主たる廊下その他の建築物の部分における高さ(当該室の基準点から煙等の下端位置までの高さとする。)は次のイからハまでに掲げる建築物の部分の区分に応じ、それぞれ該当イからハまでに定める数値とする。

煙層下端高さ算定室は、
 ①当該階の各居室(当該火災室を除く)
 ②当該居室から直通階段に通ずる主たる廊下その他の建築物の部分
 コラム「(11)階煙降下時間算定室【ルートB1】」で解説した建築基準法施行令第129条第3項一号ホに示されている内容と同じです。避難時間判定法、煙高さ判定法のどちらも基本的には同じ場所で煙をチェックすることが求められています。
 その上で、イロハの部分に応じて算出します。

イ当該火災室に面する部分(当該火災室(居室であるものに限る。)を通らなければ避難することができない部分及びハに掲げる部分を除く。以下「火災室隣接部分」という。)階避難完了時間、階避難完了時間が経過した時における当該火災隣接部分の煙層温度(以下単に「火災室隣接部分の煙層上昇温度」という。)及び当該火災室における漏煙開始時間に応じ、それぞれ次の表に掲げる式によって計算した数値(以下「火災室隣接部分の煙層下端高さ」という。

当該火災室(居室であるものに限る。)を通らなければ避難することができない部分」とは、居室内居室を指しています。当該火災室で出火した場合、居室内居室の安全性能は、居室計算で確かめているので除外されます。また、ここには明記されていませんが、前提となる煙層下端高さを算定する室は、階出口に通ずる部分を除くと居室に限られています。下図で居室(1)を当該火災室とすると、居室(3)、廊下(1)が火災室隣接部分となり、煙層下端高さ算定対象室となります。
火災室隣接部分.jpg

ロ火災室隣接部分以外の部分(ハに掲げる部分を除く。)イの規定によって計算した各火災室隣接部分の煙層下端高さのうち最小のものに応じ、それぞれ次の表に定める数値(以下「火災室隣接部分以外の部分の煙層下端高さ」という。)

各火災室隣接部分の煙層下端高さのうち最小のもの 火災室隣接部分以外の部分の煙層下端高さ
 1.8メートル以上である場合 1.8 
 1.8メートル未満である場合 0.0 

 火災室隣接部分で煙層下端高さが1.8m以上であるなら、火災室隣接部分以外の部分の全てで煙層下端高さが1.8mになることを示しています。すなわち、「当該階の各居室(当該火災室を除く)、および、当該居室から直通階段に通ずる主たる廊下その他の建築物の部分」で煙層下端高さを求める必要があるため直接煙層下端高さを算定しない火災室隣接部分以外の部分においても煙層下端高さが1.8mになることが明記されました。
 これによって、避難時間判定法では常であった、煙降下時間をどの室で算定すべきかといった論争はなくなります。

ハ直通階段の付室(当該直通階段の階段室又は当該付室の構造が平成28年国土交通省告示第696号に定める構造方法(同告示第4号に定める構造方法にあっては、送風機が1分間につき90立方メートル以上の空気を排出することができる能力を有するものに限る。)を用いる構造であるものに限る。)1.8メートル

 告示696号は特別避難階段の階段室又は付室の構造方法を示したものです。特別避難階段の付室と同等の付室が設置され、規定の排煙設備が設置されている時、煙層下端高さは1.8mとなります。

避難時間判定法との違い

 避難時間判定法では、階出口が設置される室で階煙降下時間を求め、避難完了時間と比較します。しかし、この方法は避難途上に煙に曝される危険性があり、設計者はそれに気付いて対策を講じなくてはなりません。ところが、逆にこの欠点を利用し、安全性能が確認できているものとして計画を進める設計者が後を絶ちません。
 施行令には「当該居室から直通階段に通ずる主たる廊下その他の建築物の部分」で煙降下時間の算定が必要と示されています。よって、告示にその方法が示されていなくても、何らかの方法で煙に曝されないことを確認する必要があります。避難途上の安全性能の確認を行っていないなら、確認審査で指摘されるべきなのです。ところが、告示には確認方法が示されていないためなのか、何も指摘されることなく審査を通過してしまうのです。
煙高さ算定方法.jpg

 上図は、避難時間判定法と煙高さ判定法の安全性能の確認方法を比較したものです。
 煙高さ判定法では、在館者全員の避難が完了できると想定した時点に火災室隣接部分で煙高さが1.8m未満になっていないことを確認しています。万が一避難が遅れた在館者がいたとしても煙に曝される危険性は低くなります。避難時間判定法では、避難途上の在館者の有無と煙高さは確認しません。そのため、階出口が設置されている室に避難するまでは煙に曝される危険性があります。こうしたことから、煙高さ判定法は、避難時間判定法と比較し、より安全な設計に導く設計手法だと言えるのです。

火災室隣接部分の煙下端高さ

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 階避難完了時の火災室隣接部分の煙層上昇温度の算定には、正確な階避難完了時間の算出が不可欠です。階避難完了時間の算出方法については、本コラム(21)(24)で詳しく解説していますのでそちらをご参照ください。
 安全性能確認の大前提は、階避難完了時間が10分以下であることです。10分を越えると安全性能は確認できません。階避難完了が10分以下の場合、火災室隣接部分の煙層上昇温度が180度以下であることを確認します。180度を超えると居室と同様に煙層下端高さは0mになってしまいます。火災室隣接部分の煙層上昇温度は、居室の煙層上昇温度の算定と同じロジックで算定しますが、まず、火災室の煙層上昇温度、その上で火災室隣接部分への煙伝播という2段階で算定します。

 以上、今回は、階避難完了時の火災室隣接部分の煙層下端高さの算定の流れを解説しました。次回はさらに詳しく、算定式を解き明かしていきたいと思います。

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