Column避難安全検証法使いこなし術

(33)徹底解説「煙高さ判定法」 第17回 全館煙層下端高さ(4)

2024/10/01

表紙写真.jpg

全館煙層下端高さ算定について、今回は階段隣接室が火災部分に隣接しない場合の算定方法の解説です。添付の告示476号と照らし合わせながら読み進めてください。

階段隣接室中間部分とは

「階段隣接室中間部分」とは、階段隣接室が火災部分に隣接しない場合の火災部分と階段隣接室に挟まれた空間で、告示には「火災部分から当該階段隣接室に至る経路の部分をいう。」とあるので、火災部分の出口から階段隣接室入口に通じる経路上の空間を指すようです。わかりやすい具体例で確認してみましょう。図1は階段隣接室中間部分がなく、図2は階段隣接室中間部分ができる例です。

中間部分(1).jpg図1

 図1の計画は、階避難安全性能を確認できるように内装は全て不燃、各火災室からの出口を10分間防火設備としています。階段隣接室は全館検証利用の条件である付室で耐火構造の壁で区画され、室内側の扉は特定防火設備となっています。すると、火災部分は出火室に関わらず破線で囲った範囲となり、階段隣接室中間部分は存在しません。

中間部分(2).jpg図2

 図2では、図1の計画の居室(2)と居室(3)の間に面積区画が入っています。廊下(1)と廊下(2)の間の開口部は特定防火設備となります。この場合、居室(1)や居室(2)で出火した場合の火災部分は居室(1)・居室(2)WC()WC()・廊下(1)の範囲となり、階段隣接室(1)は火災部分に隣接、階段隣接室(2)は火災部分に隣接しません。すると、階段隣接室中間部分は「火災部分から当該階段隣接室に至る経路の部分をいう。」のですから、廊下(2)の部分が対象となります。このように、階段隣接室中間部分は、区画が存在する計画の場合にできる空間であることがわかります。

 ここではわかりやすい計画を用いましたが、例えば居室(2)と居室(3)の間に扉が設置されている場合に「火災部分から当該階段隣接室に至る経路の部分をいう。」の部分に該当する居室(3)が階段隣接室中間部分になるか否か、告示からは読み取れません。また廊下(2)の途中に扉が設置され2つに分かれている場合、複数の廊下部分をまとめて階段隣接室中間部分として扱うのかどうかも不明です。
 火災部分から階段隣接室に至る階段隣接室中間部分が複数の室で構成されている場合、それらの室をまとめて階段隣接室中間部分と扱うと、Aw(room(m(st)))(階段隣接室中間部分の壁(基準点からの高さが天井の高さの1/2以下の部分を除く。)及び天井の室内に面する部分の表面積)が大きくなり煙層上昇温度が低く算定され、結果は不安全側となります。つまり、解釈の仕方で結果が変わってしまうのです。詳細な扱いが明確に示される必要がありますが、現在のところ、告示に示された以外の情報はありません。解説書の発行が待たれます。

火災部分に隣接しない場合の算定方法

 火災部分に隣接しない場合の算定方法は、隣接している場合と同様に階段隣接室の煙層上昇温度を求めます。

∆Troom(st)
当該階段隣接室の種類に応じ、それぞれ次の表に掲げる式によって計算した階段隣接室の煙層上昇温度(単位 度)

 式1.jpg

Qroom(st)
当該階段隣接室の種類に応じ、それぞれ次の表に掲げる式によって計算した火災部分から当該階段隣接室への噴出熱気流の運搬熱量(単位 kw

 式2.jpg

この式は、火災部分から当該階段隣接室への算定式と同じ項目で構成されています。
それぞれ以下のように算出します。

①火災部分から階段隣接室中間部分への噴出熱気流の運搬熱量

 式3.jpg
②火災部分から階段隣接室中間部分への噴出熱気流の質量流量
 式4.jpg

階段隣接室での煙曝露基準と算定方法

∆Troom(st)180 かつ >√(500⁄3tpass)(暴露限界温度)の場合、火災部分から当該階段隣接室への噴出熱気流の運搬熱量に応じて階段隣接室の排煙量を評価します。
∆Troom(st)180 かつ≦√(500⁄3tpass)((暴露限界温度)の場合、煙層下端高さはHlim、となります。
 暴露限界温度は、居室検証や階検証においても煙層下端高さを算定する室で用いられます。煙層上昇温度が180度以下で曝露限界温度以下であれば階段隣接室の排煙量を評価しなくても安全性能が確認できるため、煙層下端高さは求めるまでもなく、煙に曝されない1.8mとするか、煙が漏れ出さないHlimとします。

 煙に曝される場合の許容安全基準は一般に以下のように定められています。(建築物の火災安全設計指針 日本建築学会)
 式5.jpg

∆Tmax:避難者が暴露される煙の上昇温度の最大値
t1:当該避難者への煙の曝露が開始する時間()
t2:当該避難者への煙の曝露が終了する時間()

この式を煙の上昇温度の最大値を求める計算式に変形すると
 式6.jpg
元の式の曝露時間の単位は秒であるので分で計算できるように置き換えると
 式7.jpg

となり、(t2-t1)部分をtpass(出口通過時間)に置き換えると告示の判定式になります。
 曝露時間を出口通過時間に置き換えられるのは、避難開始は遅くとも避難者が煙に曝されはじめた時間には行われると考えられるためです。よって、避難完了時の階段隣接室の煙層上昇温度が暴露限界温度以下であれば煙に曝されたとしても安全に避難可能であると判断します。

具体的に煙層下端高さを求める場合

 ここまで述べてきたように、火災による煙に曝されたとしても安全に避難できるのであれば、煙層下端高さを求めることはなく、煙層上昇温度で安全性能を確認します。安全性能の確認のために具体的に煙層下端高さを求めることは、安全基準を超える煙曝露の可能性があり、かつ、火災部分から当該階段隣接室への噴出熱気流の運搬熱量が一定量を超えたときに初めて必要となります。

階段隣接室の排煙量

Eroom(st)
当該階段隣接室に設けられた限界煙層高さ有効開口部の種類に応じ、それぞれ次の表に掲げる式によって計算した当該階段隣接室に設けられた各限界煙層高さ有効開口部及び他の限界煙層高さ有効開口部の排煙量の合計のうち最小のもの(当該階段隣接室に設けられた限界煙層高さ有効開口部の種類が同表(ニ)に掲げるものである場合にあっては、当該階段隣接室に設けられた各限界煙層高さ有効開口部及び他の限界煙層高さ有効開口部の排煙量の合計のうち最小のもの又は当該階段隣接室に設けられた給気口(当該階段隣接室に設けられた限界煙層高さ有効開口部の開放に伴い開放され又は常時開放状態にある給気口に限る。)の開口面積の合計に550を乗じたもののうち、いずれか小さい数値。以下「当該階段隣接室の排煙量」という。)(単位 ㎥/分)
 排煙量計算の基本は避難時間判定法と同じですが、機械排煙の場合給気口の大きさによって排煙量が左右されることに注意してください。

 全館煙層下端高さ算定について、今回は階段隣接室が火災部分に隣接しない場合の算定方法を解説しました。次回は、階段避難経路の部分の煙層下端高さ及び竪穴隣接室の煙層下端高さの算定方法について解説します。

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