Column避難安全検証法使いこなし術

(34)徹底解説「煙高さ判定法」 第18回 全館煙層下端高さ(5)

2024/10/15

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 前回述べた階段隣接室の煙層下端高さ算定に続き、今回は階段避難経路の部分の煙層下端高さ、及び、竪穴隣接室の煙層下端高さの算定方法について解説します。添付の告示476号と照らし合わせながら読み進めてください。

階段避難経路の部分の煙層下端高さの算定方法

避難完了時間、当該階段避難経路の部分の種類、避難完了時間が経過した時における当該階段避難経路の部分の煙層上昇温度(以下単に「階段避難経路の部分の煙層上昇温度」という。)及び火災部分から当該階段避難経路の部分への噴出熱気流の運搬熱量に応じ、それぞれ次の表に掲げる式によって計算した階段避難経路の部分の煙層下端高さのうち最小のもの(単位 m)
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 算定の対象となる室が異なるだけで、直通階段隣接室の煙層下端高さの場合と同じです。ただし、直通階段隣接室ではその室は直通階段の付室1室でしたが、階段避難経路の部分では、直通階段から地上に至る経路上にある各室なので1室とは限りません。

階段避難経路の部分とは

 階段避難経路の部分とはどの部分でどう計算を進めるか、具体例を用いて、火災部分との関係から考えます。
 下図は、一般的な事務所のビルの避難階の計画です。直通階段は屋内階段の階段(1)、屋外階段の階段(2)2ヶ所で、屋内階段(1)は全館避難安全検証を採用するために付室が設置されています。煙層下端高さを安全な高さに保つために、階段避難経路の部分と火災部分とは区画する必要があります。
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 階段避難経路の部分は「直通階段から地上に至る経路上にある各室」と定義されていますので、上図の場合、付室(1)・ホール:風除室・廊下が該当します。そのうち付室(1)は直通階段の付室ですから煙層下端高さの算定は不要です。表を読み取ると1.8mになります。

階段避難経路の部分のどこで算定するのか

 火災部分に隣接しない場合の階段避難経路の部分の煙層下端高さ算定は、階段隣接室の煙層下端高さ算定と同様、階段避難経路の部分の中間部分を考えます。
 階段隣接室の煙層下端高さ算定では算定対象部分は1室なので隣接する火災部分も1つですが、階段避難経路の部分は複数の室で構成されているため、1つの火災部分から複数の伝播経路が考えられます。その場合、複数の室で構成された階段避難経路の部分について、1つの室として扱うのか、あるいは別々に扱うのか、告示には明確に示されていません。
 では、どのように検証すればよいのか。火災部分(1)で出火した場合を例として考えられる次の4つの伝搬経路について検討してみましょう。

  ①火災部分(1)→風除室
  ②火災部分(1)→風除室(中間部分)→ホール
  ③火災部分(1)→風除室(中間部分)→ホール(中間部分)→廊下
  ④火災部分(1)→貸店舗(1)事務室(中間部分)→内廊下(中間部分)→廊下

 ①では、風除室は火災部分に隣接しているので疑問は生じません。
 ②、③では階段避難経路の部分の一部を中間部分としてホールや廊下での煙層下端高さを求める必要があるのか疑問が生じます。また、中間部分が複数存在する場合の計算方法は告示に示されていません。煙高さ判定法の基本的な考え方に照らし合わせると階段避難経路の部分の風除室で煙層下端高さが1.8m以上であることが確認できれば計算の必要はないと考えられます。
 階避難安全検証法においても、各居室から階段に通じる避難経路となる部分の全ての部分で煙層下端高さが1.8m以上あることを確認する必要がありますが、火災室隣接室の煙層下端高さが1.8m以上であれば火災室隣接室以外の部分の煙層下端高さは1.8mとなるとしています。同様に階段避難経路の部分を構成する全ての室で煙層下端高さを確認するには、階段避難経路の部分を構成する1室で煙層下端高さが1.8m以上であることが確認できれば煙層下端高さ算定室以外の部分の煙層下端高さは1.8mと判定できます。
 煙高さ判定法でこのように扱えるのは、避難が完了した時点(避難が完了して建物の中に誰もいない状態)で、最も煙層下端高さが低くなる火災室から最も近い部分で1.8m以上あることを確認しているからです。
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 このように、階段避難経路の部分は、一体と扱わず、別々の室として扱っても問題なく検証できることが判りました。

 ④の伝播経路は、火災部分である貸店舗(1)事務室を通じています。伝播経路が他の火災部分の場合、伝播経路となる開口部で少なくとも2回火災の伝播が抑制されることから、貸店舗(1)事務室で出火した場合の煙層下端高さが1.8m以上であれば、計算の必要はないと考えられます。
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 上図で、火災部分(1)、火災部分(2)の室条件、開口部の寸法を同じとして、火災部分(2)を中間部分として火災部分(1)で出火した場合の廊下での煙層上昇温度と火災部分(2)で出火した場合の廊下での煙層上昇温度を比較すると、火災部分(1)で出火した場合の煙層上昇温度は、火災部分(2)で出火した場合の1/10程度となります。火災条件や火災部分(1)から火災部分(2)に通ずる開口部の寸法によって違いは生じますが問題のない範囲と考えられます。

これらの考え方で整理すると、前述の伝搬経路は以下のようになります。
・火災部分(1)→風除室
・火災部分(2)→内廊下(中間部分)→廊下
・火災部分(3)→内廊下(中間部分)→廊下
・火災部分(4)→廊下

 これはあくまで告示の文面を常識で読み解いたに過ぎず、告示が真に意図する解釈であるかどうかはわかりません。解説書の発行が待たれます。

竪穴隣接室の煙層下端高さの算定方法

階段の部分(直通階段の部分を除く。)及び出火階の直上階以上の各階の部分 出火階の直上階以上の各階における竪穴部分(出火階の一部を含むものに限る。以下このロにおいて同じ。)に隣接する各室(以下「竪穴隣接室」という。)における煙等の高さ(当該各室の基準点から煙等の下端の位置までの高さとする。以下「竪穴隣接室の煙層下端高さ」という。)のうち最小のものに応じ、それぞれ次の表に定める高さ(以下「階段の部分及び出火階の直上階以上の各階の部分の煙層下端高さ」という。)(単位 m)
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 告示に従うと、一旦竪穴隣接室の煙層下端高さを求めた上で、階段の部分及び出火階の直上階以上の各階の部分の煙層下端高さを求める形式になります。しかし、単純に竪穴隣接室の煙層下端高さが1.8m以上あれば全ての階段、出火階以上の各部分の煙層下端高さは1.8mになると覚えておけばよいでしょう。

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避難完了時間及び避難完了時間が経過した時における当該竪穴隣接室の煙層上昇温度(以下単に「竪穴隣接室の煙上昇温度」という。に応じ、それぞれ次の表に掲げる式によって計算した竪穴隣接室の煙層下端高さのうち最小のもの(単位 m)
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 直通階段隣接室の煙層下端高さの算定と煙層下端高さを算定する室が異なるだけで、算定方法は火災部分からの噴出熱気流の運搬量の条件がなくなります。それ以外は同じです。

検証イメージ

 竪穴隣接室での煙層下端高さの算定は、平面的ではなく、縦方向の煙伝播と考えれば理解しやすいでしょう。

・竪穴で出火
 n階の竪穴底部で出火、n階より上の階の竪穴隣接室での煙層下端高さを求めます。
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 煙層下端高さ算定室に隣接した部分での出火と考えれば理解しやすいでしょう。

・竪穴以外で出火
 n階の竪穴以外の部分で出火、n階より上の階の竪穴隣接室での煙層下端高さを求めます。
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 煙層下端高さ算定室に隣接しない部分での出火と考えれば理解しやすいでしょう。竪穴部分は竪穴中間部分となります。

 ここまで5回にわたり全館煙層下端高さについて解説してきましたが、ご理解いただけたでしょうか。煙高さ判定法が施行されてから2年以上経過しますが解説書の発行もなく、告示の文言から検証方法の全てを理解することは極めて困難です。将来的に解説書が発行されたとしても、この複雑な検証法を用いて設計を進めることは非常に難しいだろうと感じています。弊社が開発を進めている避難安全検証法システムSEDについても、煙高さ判定法の全館避難安全検証については、完成までもう少し時間がかかりそうです。
 繰り返し述べてきたように、煙高さ判定法は、避難時間判定法の問題点を解決し、より安全な建物の設計へ導くものであることに間違いありません。しかし、20年以上前に施行された避難時間判定法すら正しく理解できていない状況で、さらに複雑な検証法を示したところで、それを積極的に利用しようと考える建築士は少ないでしょう。
 今後、避難安全検証法を一般的な設計手法とするためには、まず、大学や専門学校、工業高校等の教育現場において建築防災設計を学ぶ機会を増やし、その有用性を理解させるべきでしょう。そして、検証法を用いなければ設計が進められない社会を築く必要があると考えます。それは、真に安全な建物によって人の命が守られる社会となるはずです。

  株式会社九門が開発したSEDは、多くの実績に基づき、より見やすくわかりやすい出力結果へと改良を重ね、全国の設計士のみなさんにご愛用いただいています。煙高さ判定法についても階避難安全検証は実務に耐えうるシステムになり、避難時間判定法(ルートB1)の検証で入力したデータを、検証方法を切り替えるだけで煙高さ判定法(ルートB2)でも検証可能です。データの入力はCAD感覚で簡単です。ぜひ、30日間無料トライアルをお試しください。

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