(35)避難時間判定法と煙高さ判定法はここが違う【避難完了時間】
2024/11/01
これまで18回にわたり煙高さ判定法について解説してきました。煙に曝されることなく避難できることを確認するのは同じなのに、避難時間判定法とは根本的に違いがあります。
・避難時間判定法(ルートB1)
安全性能は、避難完了時間≦煙降下時間であることで確認します。
避難は出火場所に関わらず一様に一斉に行われることを前提とし、避難完了時間は、根拠となる避難開始時間、歩行時間、出口通過時間について、それぞれ最も長くなる出火室での数値を合計します。煙降下時間は、出火室毎に全ての階出口において避難が困難になる1.8mの高さまで煙が降下する時間を算定し、最も長くなる数値を採用します。煙発生量は、火災の成長を考慮すると出火室や煙伝播経路によって煙降下時間算定室までの伝播時間が異なり検証が煩雑となることから、定常火災とします。
このように簡素化されているため検証作業は比較的簡単です。しかし、それぞれの数値の根拠となる出火室は必ずしも同室とは限らないため、特定の場所での出火に対する安全性能の議論は難しく、正しい安全性能の取り扱いを阻害する原因となっています。
・煙高さ判定法(ルートB2)
安全性能は、出火室毎に避難完了時に階出口に通じる避難経路で煙層下端高さが1.8m以上であることを確認します。
避難は出火室毎に設計者が意図した避難方向に行われるものとし、避難完了時間は、出火室の在館者はいち早く避難行動を開始、非出火室の在館者の避難は遅れるものとして算出します。また、火災部分の区画性能に応じて制限が設けられ、煙層の上昇温度が重要視されますが「建築物の火災安全設計指針」に示される基準内の被爆は許容されます。
このように細かな対策が取られることで、避難時間判定法で指摘されている、扱う人による結果のバラつきや、言葉尻を捉えた解釈によって安全性能が損なわれるといった問題点が改善されました。その反面、検証作業は非常に煩雑になり、基本的な防災設計の知識がないと利用が難しくなりました。詳細は当コラム「(3)避難時間判定法(ルートB1)と煙高さ判定法(ルートB2)を徹底比較」を参照してください。
こうした相違点から、煙高さ判定法を利用する際にはいろいろと戸惑うことも多いと思います。そこで今回は避難完了時間、特に居室出口通過時間の考え方から、避難時間判定法と煙高さ判定法の違いを比較し解説したいと思います。
避難時間判定法(ルートB1) 居室出口通過時間の基本的な考え方
避難は利用可能な全ての扉を利用して一様に行われるものとし、計算対象の居室(以降、当該居室)以外の当該居室避難経路等の部分を通らなければ避難できない在室者も含めて居室避難経路等の部分に避難者が収容できるか否かで評価します。居室避難経路等の部分に収容できない場合は有効流動係数を低減することによって、出口通過時間を算出します。
避難の前提が一様としているので、複数の避難経路が存在する場合、それらの経路の滞留は合算した上で評価します。よって、避難経路の1ヶ所でも直接地上への出口となっていると滞留は起こらないものとして有効流動係数は最大の90人/分・mとなります。
Neff(room):
当該居室の各出口の幅、当該居室の種類及び当該居室の各出口に面する部分(以下「居室避難経路等の部分」という。)の収容可能人数に応じ、それぞれ次の表に掲げる式によって計算した当該居室の各出口の有効流動係数(単位 人/分・m)
p:
建築物の部分の種類に応じ、それぞれ次の表に定める在館者密度(単位 人/㎡)
Aarea:
当該居室等の各部分の床面積(単位 ㎡)
Beff(room):
当該居室の各出口の幅及び火災が発生してから在室者が当該居室の出口の1に達するまでに要する時間に応じ、それぞれ次の表に掲げる式によって計算した当該居室の各出口の有効出口幅(単位 m)
当該居室出口の幅のうち最大のものの近傍での火災を想定し、輻射熱によって避難が困難にあることを想定して有効幅を小さくします。
当該室の計算を行う場合、廊下(2)・(3)に廊下(2)・(3)を通らなければ避難できない全の在室者(当該居室の12人+室(2)の100人)が収容可能かを確認して扉(D4・D5・D6)の有効流動係数を算出します。
SEDの結果画面より
2ヶ所ある避難経路等の部分を合計して在館者の収容の可否を判定しているので、廊下(3)を利用することはできない室(2)の在館者が廊下(3)を利用していることになっています。避難経路を考えると以下のようになると考えられます。
・廊下(2)を利用しなければ避難できない在館者
室(2):100人 当該室のD4・D5扉を利用する8人、合計104人となり収容不可と判定され、D4・D5扉の有効流動係数はそれぞれ37.037人/分・m
・廊下(3)を利用しなければ避難できない在館者
当該室のD6扉を利用する8人となり収容可と判定され、D6扉の有効流動係数は90人/分・m
すると、
ΣNeffBeff=33.333×2+81=147.666
告示の計算方法による結果と比較すると小さく、出口通過時間は長く算定される結果となりました。しかし、この計算方法も在館者全員をΣNeffBeffで割ることになるので、室(2)の在館者が廊下(3)を利用することになっています。経路毎に計算を行わない限り現実に見合った計算結果にはなりません。
このような問題が起こらないように改められたのが煙高さ判定法です。煙高さ判定法では、避難経路毎に出口滞留時間を求め、最も長い出口滞留時間を採用することとされました。次に詳しく述べます。
煙高さ判定法(ルートB2) 居室出口通過時間の基本的な考え方
居室出口通過時間(居室出口滞留時間)の計算方法は、新建築防災計画指針による計算方法と同様に当該居室の避難とそれ以外の居室の避難は同時には行われないとします。当該居室以外の居室の在室者は含めず居室出口毎に避難人数を扉幅按分で決定した上、居室避難経路等の部分内での滞留を評価します。有効流動係数は一定として避難経路上のネックとなる部分の有効幅によって、出口通過時間(居室出口滞留時間)を算出します。
煙高さ判定法では、児童福祉施設等(通所)の利用が可能なため、その計算方法が示されています。ルートB1とはその他用途の計算式で避難時間判定法と比較します。
計算は、避難経路毎に以下の手順で行います。
(1)居室出口からの避難経路で滞留が起こらないか確認する
当該居室の出口の流量と階出口に通ずる経路上の流量とを比較することで滞留が起こるか否かを確認します。
上図の場合、
当該居室の扉D1の流量は、90×1.0=90人/分
比較対象
廊下(1)(2)のネック扉D2の流量は、90×1.0=90人/分
階出口扉D3の流量は、90×1.0=90人/分
廊下(1)の流量は、90×2.9=261人/分
廊下(2)の流量は、90×1.9=171人/分
となり、滞留は生じません。
例の階出口は地上への出口となっていますが、非避難階の場合は階段が設置され、階段有効幅が1.2下りであるなら流動係数は72、流量は1.2×72=86.4となり、当該居室扉D1の流量90より小さいため、階段部分で滞留が生じることになります。
・90Broom≤Rneck(room)(滞留が起こらない)の場合
滞留は起こっていないので、当該居室の扉1からは最大流量90人/分・mで避難者は流出可能です。
・90Broom>Rneck(room)(滞留が起こる)の場合
(2)滞留が起こる場合、避難者が避難経路等の部分に収容できるか確認します。
・収容できる場合
収容できるということは、当該居室扉D1からの避難者は滞りなく室外に出ることができるので最大流量90人/分・mで避難者は流出可能です。以下の式で収容の有無、出口滞留時間を算定します。
収容可能ということは、以下の関係が成立しています。
居室避難経路の部分で滞留が生じない場合の算定式と同じになります。
・収容できない場合
収容不可能ということは、以下の関係が成立しています。
ルートB1の出口通過時間を算定した同じ計画で確認してみます。
・居室避難経路:廊下(2)
滞留の有無 有り
計算式
収容の可否 収容可
・居室避難経路:廊下(3)
滞留の有無 無し
計算式
SEDの結果画面より
煙高さ判定法の計算式には安全率が掛けられている
煙高さ判定法の計算式には安全率が掛けられています。
上図の場合、扉D1の流出量は扉D2の流出量より大きいので滞留が起こると判定されます。すると以下の式を用いて算定することになります。
数値を代入すると
ところが実際の避難では、D1扉からの流出と同時にD2扉からも流出があるので、D1扉とD2扉の距離を無視すると、避難開始1分後にD1扉から廊下(1)に100人流出すると同時にD2扉から屋外に50人流出します。すると、廊下(1)には50人の避難者が滞っていることになります。滞留可能人数の60人を下回っているので、滞留の影響を受けることはなくD1扉からの流出は最大流量となり
数値を代入すると
となります。
新建築防災計画指針では、D1扉とD2扉の距離を無視することなくD2扉からの流出も考慮して避難時間を算定します。煙高さ判定法では、D1扉とD2扉の距離を無視せずにD2扉からの流出を考慮した検証を行うと計算が非常に複雑になることから、安全率を見込んでD2扉からの流出を考慮しない算定式を用いていると思われます。
以上、避難時間判定法(ルートB1)と煙高さ判定法(ルートB2)の違いについてご理解いただけたこと思います。避難時間判定法(ルートB1)は、防災設計に不慣れな設計者でも扱いやすく簡素化するため一様に避難が行われるとされていることが、かえって検証を難しくし、安全性能の議論を招き、正しい安全性能の取り扱いを阻害する原因となってしまいました。煙高さ判定法(ルートB2)は、避難行動の基本に立ち返り、避難方向を決めた上で検証を行います。ただ、そのためには防災設計の基本的な考え方を理解した上で設計を進める必要があります。
設計士のみなさん、ぜひこの機会に建築防災設計を学び、煙高さ判定法を使いこなせるようになってください。そして、真に安全な建物づくりに貢献していただきたいと願ってやみません。
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本コラムで使用したSEDファイル
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