(38)建築基準法施行令から読み解く避難安全検証法(前編)
2024/12/15
避難安全検証自動計算ツールSEDシステムは、発売4年目に入り徐々に利用者が増えてきました。これはみなさまが日常の設計業務に避難安全検証法を積極的に活用されているということであり、少しでもみなさまのお役に立てているならば嬉しい限りです。
しかし、SEDシステムを使い始めたからといって、誰もがすぐに避難安全検証法を利用して設計や申請作業をこなすことは難しいだろうと思います。告示に示された具体的な方法はあまりに複雑で難解だからです。けれども、基本が理解できていれば、具体的な計算ができなくても、どのように設計を進めればよいのかはわかります。
そこで今回と次回は建築基準法施行令を読み解くことで避難安全検証法の基本理念を理解し、避難安全検証法を利用した場合の設計方針が決められるようになっていただきたいと思います。
今回は、建築基準法施行令第百二十九条『避難上の安全の検証を行う建築物の階に対する基準の適用』から解説します。
適用除外項目
建築物の階(物品販売業を営む店舗の用途に供する建築物にあっては、屋上広場を含む。以下この条及び次条第四項において同じ。)のうち、当該階が階避難安全性能を有するものであることについて、階避難安全検証法により確かめられたもの(主要構造部が準耐火構造である建築物又は主要構造部が不燃材料で造られた建築物の階に限る。)又は国土交通大臣の認定を受けたものについては、第百十九条、第百二十条、第百二十三条第三項第一号、第二号、第十号(屋内からバルコニー又は付室に通ずる出入口に係る部分に限る。)及び第十二号、第百二十四条第一項第二号、第百二十六条の二、第百二十六条の三並びに第百二十八条の五(第二項、第六項及び第七項並びに階段に係る部分を除く。)の規定は、適用しない。
ここに示されているのは、主要構造部が準耐火構造である建築物又は主要構造部が不燃材料で造られた建築物の階で安全性能が確認できた場合に適用除外できる項目です。避難安全検証法の利用を検討される設計者の多くが、適用除外を受けることを目的としているようですが、それは避難安全検証法の本来の目的ではありません。安全性能が確認できるのであれば、建築基準法が求める建物の安全性が確保されるので、これらの項目は考慮しなくてもよい、というのが考え方の基本です。
階避難安全性能とは
2 前項の「階避難安全性能」とは、当該階のいずれの火災室で火災が発生した場合においても、当該階に存する者(当該階を通らなければ避難することができない者を含む。次項第一号ニにおいて「階に存する者」という。)の全てが当該階から直通階段の一までの避難(避難階にあつては、地上までの避難)を終了するまでの間、当該階の各居室及び各居室から直通階段(避難階にあっては、地上。以下この条において同じ。)に通ずる主たる廊下その他の建築物の部分において、避難上支障がある高さまで煙又はガスが降下しないものであることとする。
要するに、階避難安全性能とは、階のどこで出火しようと、各居室、また、各居室から直通階段に至る全ての室から煙に曝されず避難できるということ、となります。
階避難安全検証法(避難時間判定法)
3 第一項の「階避難安全検証法」とは、次の各号のいずれかに掲げる方法をいう。
一 次に定めるところにより、火災発生時において当該建築物の階からの避難が安全に行われることを当該階からの避難に要する時間に基づき検証する方法
避難時間判定法(ルートB1)の基本的な検証方法が示されています。国土交通大臣が定める方法とは、階避難安全検証法 令和2年4月1日 国土交通省告示510号(旧 告示1441号)を指しています。
イ 当該階の各居室ごとに、当該居室に存する者(当該居室を通らなければ避難することができない者を含む。)の全てが当該居室において火災が発生してから当該居室からの避難を終了するまでに要する時間を、当該居室及び当該居室を通らなければ避難することができない建築物の部分(以下このイにおいて「当該居室等」という。)の用途及び床面積の合計、当該居室等の各部分から当該居室の出口(当該居室から直通階段に通ずる主たる廊下その他の通路に通ずる出口に限る。)の一に至る歩行距離、当該階の各室の用途及び床面積並びに当該階の各室の出口(当該居室の出口及びこれに通ずるものに限る。)の幅に応じて国土交通大臣が定める方法により計算すること。
告示での居室避難完了時間に当たります。居室での出火を想定し、出火している居室を通らなければ避難できない者を含める全ての在館者が、出火している居室の外に出るまでの時間を求めます。
ロ 当該階の各居室ごとに、当該居室において発生した火災により生じた煙又はガスが避難上支障のある高さまで降下するために要する時間を、当該居室の用途、床面積及び天井の高さ、当該居室に設ける排煙設備の構造並びに当該居室の壁及び天井の仕上げに用いる材料の種類に応じて国土交通大臣が定める方法により計算すること。
告示での居室煙降下時間に当たります。
ハ 当該階の各居室についてイの規定によって計算した時間が、ロの規定によって計算した時間を超えないことを確かめること。
イの規定で計算した時間=居室避難完了時間が、ロの規定で計算した時間=居室煙降下時間を超えないことを確かめます。
ここまでの検証を簡単な計画図で示します。注意が必要なのは、居室(1)~(4)です。
居室(1)での出火を想定し、居室(1)内での煙降下時間を算定します。同時に、居室(1)を通らなければ避難できない居室(2)の在館者を含めて居室(1)の外に出るまでの居室避難完了時間を算定し、居室避難完了時間≦居室煙降下時間であることを確認します。
同様の確認を居室(2)~(4)についても行います。ここまでの検証で、直接火災の影響を受ける在館者が出火室である居室の外に煙に曝されることなく安全に避難できることが確認できます。
注意が必要なのは火災室(1)で出火した場合です。居室(1)で出火した時の居室(2)の在館者は居室内居室として一緒に居室(1)の外に出られることを確認できますが、非居室である火災室(1)で出火した時には、居室(4)の在館者には出火情報がすぐに伝達されず、出火と同時の避難開始困難なため、居室計算ではその安全性能が確認できません。次のフェーズでは、階で発生した火災による煙やガスに居室以外の部分で煙に曝されずに階出口まで避難できることが確認できれば、施行令が定める階安全性能を有することになります。
ニ 当該階の各火災室ごとに、階に存する者の全てが当該火災室で火災が発生してから当該階からの避難を終了するまでに要する時間を、当該階の各室及び当該階を通らなければ避難することができない建築物の部分(以下このニにおいて「当該階の各室等」という。)の用途及び床面積、当該階の各室等の各部分から直通階段への出口の一に至る歩行距離並びに当該階の各室等の出口(直通階段に通ずる出口及びこれに通ずるものに限る。)の幅に応じて国土交通大臣が定める方法により計算すること。
告示での階避難完了時間に当たります。出火している階を通らなければ避難できない者を含める全ての在館者が、出火している階の外に出るまでの時間を求めます。
ホ ①当該階の各火災室ごとに、当該火災室において発生した火災により生じた煙又はガスが、②当該階の各居室(当該火災室を除く。)及び当該居室から直通階段に通ずる主たる廊下その他の建築物の部分において避難上支障のある高さまで降下するために要する時間を、当該階の各室の用途、床面積及び天井の高さ、各室の壁及びこれに設ける開口部の構造、各室に設ける排煙設備の構造並びに各室の壁及び天井の仕上げに用いる材料の種類に応じて国土交通大臣が定める方法により計算すること。
告示での階煙降下時間に当たります。
①当該階の各火災室ごとに、当該火災室において発生した火災により生じた煙又はガス
階煙降下時間を算定するに当たり想定する出火室を示しています。国土交通省告示1440号に示される「火災の発生のおそれの少ない室」以外の全ての室が対象となります。居室(1)~居室(4)、火災室(1)(2)での出火を想定することになります。
②当該階の各居室(当該火災室を除く。)及び当該居室から直通階段に通ずる主たる廊下その他の建築物の部分
階煙降下時間を算定する室が示されています。階煙降下時間を算定する室は、
・各居室
各居室で階煙降下時間を算定します。但し、階煙降下時間を算定する対象の室で出火を想定している場合は除かれます。
・当該居室から直通階段に通ずる室
各居室から直通階段(避難階では地上)に通じる室で階煙降下時間を算定します。
上図では、居室(1)での出火を想定した場合の階煙降下時間算定室を示しています。居室(1)以外の室で出火を想定する場合、居室(1)は居室(2)の直通階段(避難階では地上)に通ずる室となりますので、階煙降下時間算定室となります。階出口が設置された室で階煙降下時間を求めるとしている国土交通省告示510号と比較するとその違いに驚かれると思います。
ヘ 当該階の各火災室についてニの規定によって計算した時間が、ホの規定によって計算した時間を超えないことを確かめること。
ニの規定で計算した時間=階避難完了時間が、ホの規定で計算した時間=階煙降下時間を超えないことを確かめます。
施行令から読み解く避難安全検証法、目からうろこの部分もあったのではないでしょうか。引き続き、次回は煙高さ判定法について解説します。
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