(75) 徹底解説「避難時間判定法」 第13回 階避難安全検証法の仕組み
2026/09/01
- 避難時間判定法(ルートB1)
今回は、階避難安全検証法(ルートB1)の第2ステップである「階検証」について、居室検証との違いから煙伝播の考え方、防災計画との関係や実際の検証方法を説明します。
階検証と居室検証との違い
前回まで「居室検証」について詳しく解説しました。居室検証は、出火室の在館者が煙に曝されることなく室外へ避難できることの確認ですが、出火室からの避難(目の前に火源があり、煙が急速に迫る状況での避難)は直感的に理解しやすかったと思います。
次のステップである「階検証」では、出火室だけでなく、階全体の在館者が煙に曝されることなく階出口まで避難できることを確認します。出火室以外の在館者は、出火室から漏れ出る煙に曝されず避難完了できなくてはなりません。
これを、単に適用範囲が変わるだけで居室検証と同様と考えてしまうのは禁物です。階検証と居室検証とでは、在館者の避難の捉え方や煙伝播についての考え方が大きく異なります。
・非出火室の在館者の避難をどう捉えるか
非出火室の在館者は、出火室とは異なり、出火直後に煙に直接曝されるわけではないので出火室と比較すると避難開始が遅れます。また、時間の経過とともに伝播した煙の影響を受けるようになります。そのため、煙が到達するまでの時間と避難完了時間の関係をどのように評価するかが重要になります。
・出火室からの煙の伝播をどう制御するか
出火室で発生した煙は、開口部を通じて廊下や他室へと伝播します。そのため、煙の流出量や広がり方を適切に評価し、煙の伝播をどのように抑えるかが重要になります。
避難安全検証法は、従来から防災評定で利用されてきた防災計画の手法に則り、安全性能を評価するように作られています。特に階避難安全検証法では、出火室内だけでなく、廊下や他室への煙の影響をどのように評価するかが重要なポイントとなります。
階検証のプロセスと要点
わかりやすい例を使って説明します。図1は非常に単純な計画です。
図1
○第1ステップ:居室検証
居室Aで出火を想定し、居室内の在館者が煙に曝されることなく廊下へ避難できることを確認します。同様に居室Bについても確認します。図1の計画では、居室検証は2室行えば完了しますが、条件の異なる居室が多数存在する場合には、全ての居室について居室検証を行う必要があります。このように、いずれの居室で出火した場合でも、居室内において在館者が煙に曝されないことを確認します。具体的な方法は前回までのコラムで詳細に解説しています。
○第2ステップ:階検証
各居室の避難先となる室(図1では「廊下」)において、煙に曝されることなく地上へ(非避難階の場合は階段へ)避難できるかを確認します。
例えば、図1の火災室で出火した場合、居室A・Bの在館者は火災の発見が遅れ、その間に火災室から扉Cを通じて煙が廊下に漏れ出す可能性があります。そこで、室A・Bの在館者が、漏れ出した煙の高さが避難困難なレベルになるまでに、扉Dを通じて地上へ避難できることを確認します。すなわち、居室A・B共通の避難経路である「廊下」における煙高さが避難可否の判断の要となります。「廊下」を煙から守らなくてはいけません。
これまでも繰り返し述べてきましたが、避難安全検証法を適用する際に最も重要なのは、計画段階において避難経路を明確にすることです。従って、階検証において安全性能を確保するための要点は以下のようにまとめられます。
・居室から階出口までの避難経路を明確にする
・避難経路内で火災が起こらないようにする
・避難経路から階出口にできるだけ早く到達できるようにする
・避難経路を煙から守る
①避難経路へ煙が伝播しにくい計画とする
②煙が伝播しても避難に支障が出るまでの時間を長くする
避難経路の蓄煙体積を大きくする
避難経路に排煙設備を設置する
防災計画との関係
防災評定に携わった経験のある方はお気付きでしょうが、ここでいう「避難経路」とは、防災計画における「第一次安全区画」を指します。防災計画では「第一次安全区画」に以下の仕様が求められます。
・内装を不燃仕上とする。(火災リスクの低減)
・第一次安全区画に面する開口部を常時閉鎖か随時閉鎖型の不燃扉とする。(煙伝播の抑制)
・排煙設備の設置する(煙降下を遅らせる)
このように避難安全検証法では、安全性能を確保するための設計の過程で、防災計画の要である「第一次安全区画」の設置が自然と導かれるのです。
階検証の概要
階検証の具体的な検証方法について、告示に従って概要をまとめます。基本的には居室検証と同様で、避難開始時間、歩行時間、出口通過時間の合計から求められる階避難完了時間が階煙降下時間より短いことを確認します。
・避難開始時間
対象となる階の室床面積の合計から1つ求めます。
例えば図1で、居室Aで出火した場合、本来は居室Aの在館者が先に避難を開始し、居室Bの在館者は遅れて避難を開始します。しかし、避難安全検証法では、全ての在館者が同時に避難を開始する前提で計算を行います。これには2つの理由があります。
①出火室毎に避難完了時間を求めると検証が煩雑になるため
防災評定における避難計算では、出火室の在館者が他室より先に避難を開始することを考慮し避難グラフを作成しますが、評価を行う審査者は防災の専門家なので、最も避難が遅れるケース(最不利条件)だけを示せば十分です。
それに対し、避難安全検証法では防災の専門家ではない審査者が評価を行うことを想定しています。彼らに計算の妥当性を判断させるためには、出火室ごとに避難完了時間を算出し、その中で最も時間を要する結果を提示するという極めて煩雑な検証作業が必要です。あらかじめ全ての在館者が同時に避難を開始する前提であれば、出火室による差異を生じさせず、かつ、安全側の評価になります。
②避難経路内での滞留を評価する仕組みであるため
避難安全検証法では、避難経路内での滞留を考慮して有効流動係数を算出し、出口通過時間を評価します。その際、出火室の在館者が先に避難を開始し、遅れて他室の在館者が避難を開始するとして避難経路内での合流と滞留を評価するには、防災評定と同様に避難グラフの作成が必要です。また、それらの避難開始が常に想定どおりに行われるとは限りません。出火室を含めすべての在館者が同時に避難を開始する前提であれば、この滞留の検証を簡便に行うことができ、かつ安全側の評価となります。
・歩行時間
出火室に関係なく、階出口まで最も時間のかかる経路を1つ抽出します。
・出口通過時間
出口通過時間が最大となる出火室の結果を1つ抽出します。
・避難完了時間
それぞれ求めた避難開始時間、歩行時間、出口通過時間を合計します。
・階煙降下時間
各出火室から煙伝播経路を考慮し、直通階段(避難階において、地上)に通じる出口が設置された室において、煙高さが1.8mに達するまでの時間を算出し、その中で最も短い時間を抽出します。(なお、告示に示されるこの方法は避難途上で煙に曝される可能性があるという課題があります。この点については今後のコラムで解説します。)
・比較判定
避難完了時間<階煙降下時間 であることを確認します。
実際の検証例
図1の例に具体的な数字を加えて検証計算を行ってみましょう。
居室検証結果
| 室 名 | 避難開始時間 | 歩行時間 | 出口通過時間 | 避難完了時間 | 煙降下時間 | 判 定 |
| 居室A | 0.2667 | 0.1667 | 0.1046 | 0.5380 | 0.5742 | OK |
| 居室B | 0.2667 | 0.1667 | 0.1046 | 0.5380 | 0.5534 | OK |
階検証結果
| 用 途 | 避難開始時間 | 歩行時間 | 出口通過時間 | 避難完了時間 | 煙降下時間 | 判 定 |
| 事務所 | 3.4714 | 0.3590 | 0.2092 | 4.0396 | 0.2098 | NG |
出火室毎の階煙降下時間
| No | 出火室 | 煙降下時間 | 煙伝播経路 |
| 1 | 火災室 | 0.2098 | 出火室(扉C)→廊下 |
| 2 | 居室B | 0.6145 | 居室B(扉B)→廊下 |
| 3 | 居室A | 0.7185 | 居室A(扉A)→廊下 |
居室A・Bで出火した時、それぞれの在館者は煙に曝されずに廊下までは避難できることが確認できました。しかし、廊下で煙に曝される結果となりました。
結果を分析すると、避難開始時間が3.4714分と長く、その間に廊下へ煙が流出し煙降下が進んでいることが分かります。
避難経路での安全を確保するためには各出火室から廊下への煙流出を抑制する必要があります。そこで、扉A・B・Cを防火設備に変更します。
出火室毎の階煙降下時間
| No | 出火室 | 煙降下時間 | 煙伝播経路 |
| 1 | 火災室 | 8.0954 | 出火室(扉C)→廊下 |
| 2 | 居室B | 8.8293 | 居室B(扉B)→廊下 |
| 3 | 居室A | 9.3734 | 居室A(扉A)→廊下 |
扉A・B・Cを防火設備に変更すると、階煙降下時間は、階避難終了時間より長くなり、廊下で煙に曝されずに地上へ避難できることが確認できました。
このように、階避難安全性能を確認できる設計は、すなわち、避難経路を煙から守る設計となるのです。
防災計画は設計士の責務
設計士たる国家資格を持つ者は、建築を通じて国民の安全と幸せを守る義務があります。もしもの場合に備え避難経路を明確にするためには、基本計画段階から適切に防災計画を考慮する必要があります。ところが、防災計画を軽視し、顧客の要求のみ優先して計画を進めた上で、検証チェックだけを外注に依頼する設計士は少なくないのが現状です。これでは、設計士としての責任を十分に果しているとはいえません。
また、避難安全検証法の申請書作成代行業者にも要注意です。中には、建物の安全性を高めることよりも、数字合わせで確認審査を通過だけを目的としているものも見られます。これでは安全性に問題のある非常に危険な計画に誘導されるおそれがあります。
避難安全検証は、その基本理念を正しく理解した上で活用することが重要です。
本サイトの「避難安全検証法について」では、避難安全検証法の基本的な考え方や仕組みを解説しています。まずはこちらをご覧いただき、基礎的な知識を身につけてください。
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