Column避難安全検証法使いこなし術

(48)SED活用法(7) 計算設定(共通)解説(1/2)

2025/05/15

表紙写真.jpg

 避難安全検証法は、告示1441号(現行の告示510号)の公示から四半世紀が経過した今もなお検査機関によって解釈に違いが見られ、検証計算を行う上での障害になっています。過去25年間の経験に基づいて開発されたSEDでは、こうした解釈の違いに対応した計算設定が可能です。実績が少なく不明点の多い煙高さ判定法(ルートB2)では、解釈が明確でない部分について調整できるようになっています。
 この計算設定機能について詳しく解説したいと思います。まず、ルートB1B2に共通する設定項目について、今回と次回の2回に分けて解説します。

計算設定の切り替え

 物件設定(U)/検証/計算設定で「共通」「ルートB1」「ルートB2」を切り替えます。

  物件設定.jpg

・共通
 ルートB1B2に共通する設定をします。
・ルートB1
 避難時間判定法(ルートB1)に関する設定をします。
・ルートB2
 煙高さ判定法(ルートB2)に関する設定をします。

共通の設定

共通.jpg

扉が近接した場合に警告する距離【初期設定値:800mm

 扉が近接して設置されている場合に警告を発する距離を設定します。扉間の距離が設定数値以下であると、ログに警告が表示されます。
離れ距離例.jpg

 「2001年度版避難安全検証法の解説及び計算例とその解説」P54には、「最大幅の出口1つだけについての影響を考慮した有効出口幅を算定するということは、火災の影響により複数の出口が同時に使えないことが生じないように出口が配置されている必要がある。したがって、複数の出口が明らかに近接して設けられている場合には、それら出口は1つの広い出口として扱う。」と示されたものの、近接距離の具体的な基準が示されていなかったため、捉え方は検査機関によって様々でした。
 ところが22年後、「避難安全検証法(時間判定法)の解説及び計算例とその解説」P286質疑回答28に次のような基準が示されました。
 「なお、火熱の影響を考慮した有効出口幅の算出式は、扉から1mの距離に火源を置いて定式化されているので、目安としては扉間が2m以下の出口は一つと扱うことになります。」
 「火熱の影響を考慮した有効出口幅の算出式」については以下のように示されています。
 有効出口幅の算定は、避難に利用される最大幅の扉に対して横に1m離れたところでの火災を想定し、火災の範囲が1mまで拡大するまでの時間と在室者が対象の出口までに至る時間(treach(room))を比較します。火災の範囲が1mを超えるまでの時間の方が長ければすべての扉幅を利用して避難可能とし、そうでない場合は、火災の拡大による避難可能な扉幅を計算で求めます。
近接火災.jpg

 さて、SEDの機能は警告の表示までです。正しい検証を行うためには、連続して設置される複数の扉を1枚の扉とみなすようにしなくてはなりません。扉グループ設定を使い、以下の手順で行います。
①一体と扱う複数の扉を選択します。
 この時、扉の所属室が異なるとグループ化できないので、まず所属室を同じにします。
②右クリックで表示されるコンテキストメニューから「扉グループ設定」を選択します。
グループ設定例.jpg

③代表扉を選択し、続けて扉グループ説明分の表示位置を設定します。
 代表扉は歩行経路が引かれる扉となります。

歩行経路が壁から離れる距離【初期設定値:1,000mm

 自動歩行経路の壁からの離れ距離を設定します。
 検証法では壁芯を基準に計算を行うので、壁厚さや壁面に沿って設置される家具の厚み(概ね450600mm)と在館者の肩幅(550mm)を考慮するため壁からの離れ距離を考慮します。
壁からの離れ距離.jpg

 自動歩行経路の経路起点の壁からの離れ距離のデフォルトは、防災計画指針に示されている1,000mmに設定されています。

全ての扉の避難方向の設定を考慮して居室計算を行う【初期設定値:☑オフ】

 告示では扉の避難方向による制限はなく、単純に物理的な接続関係で検証しますが、SEDでは扉の避難方向を設定することで、建物の使い勝手や施錠を考慮できます。☑オンにすると、扉の避難方向の設定によって、実際の利用形態に則り、居室内居室や当該居室の避難経路等を利用しなければ避難できない在室者を判定し、居室計算を行います。
 扉の避難方向は、扉オブジェクトのプロパティで設定できます。
  扉の避難方向の設定.jpg

 扉の避難方向の利用方法については、本コラム「(45)SED活用法(4) 避難方向の手動設定」に詳しく解説していますのでそちらを参照してください。

☑オフの場合

避難方向OFF.jpg

 D1・D2扉に避難方向が設定されている状態で室1の居室検証を行う際、避難方向の設定は配慮されません。告示の通常の判定で室1には居室内居室は無く、室4は廊下(1)を通らなくても避難できる部分と判定されています。

☑オンの場合避難方向ON.jpg

 D1扉の避難方向が「室3→室2」と設定されているため、室2は室1を通らなければ避難できない部分(室1の居室内居室)と判定されます。また、D2扉の避難方向が「廊下(2)→室4」と設定されているため、室4は廊下(1)を通らなければ避難できない部分と判定されます。
 室1の検証結果は☑オフの状態ではOKですが、☑オンの状態ではNGとなっています。これは室2が室1の居室内居室と判定されている影響です。結果の違いをどのように評価するかは設計者に委ねられますが、性能設計の意図を生かし、実際の状況に即した評価を行うことで、建物利用者の安全性をより高められると考えます。
 ただし「扉の避難方向」という概念は告示510号には示されていません。そのため検査機関によっては、避難方向を考慮した検証について理解が得られないこともあると思われます。その際は、申請書には扉の避難方向を考慮しない告示の範囲の結果を提出し、実際の安全性能の確認には扉の避難方向を考慮した結果を活用していただきたいと思います。

非居室の火災室に居室内居室がある場合、居室避難を計算する【初期設定値:☑オン】

 下図の例で、告示510号では、火災室(1)が居室であれば、居室(1)はその居室内居室として同時に避難するものとして検証しますが、火災室(1)が非居室である場合は火災室(1)で出火した際の居室(1)の在室者の安全性能の検証は必要ないとされています。
非居室の居室内居室.jpg ところが、この火災室(1)が非居室である場合、火災室(1)で発生した火災について居室(1)への情報伝達が遅れ、居室(1)の在館者の避難が遅れる危険性が高くなります。これは、明らかに告示510号の検証方法の欠点といえます。
 この危険性について、煙高さ判定法(ルートB2)では改善が図られました。居室(1)の避難開始時間を階避難開始時間と同じにし、火災室(1)での煙降下時間が十分に長くないと安全性能が確認できないようにされたのです。だったら避難時間判定法(ルートB1)も同様に避難開始時間を遅らせることで安全性能が確認できると考えられるのですが、その方法はどこにも示されておらず、告示510号の範囲を超えてしまうことになります。
 そこでSEDでは、居室(1)の在館者の一部が火災室(1)に居るものとし、火災室(1)を居室とみなして、居室(1)を火災室(1)の居室内居室として検証できるようにしています。この設定を☑オンにすることにより、火災室(1)で出火した際に居室(1)の安全性能に問題があることに気付けると同時に、火災室(1)を居室と仮定することで、居室(1)の安全性能が確認できる可能性を見出すことができます。
非居室の居室内居室検証結果.jpg

 火災室であるが在室者がいない非居室を通らなければ避難できない居室の危険性について、私たちはSEDの開発初期からこの問題に着目し、安全性能を高める機能の実装に尽力してきました。検査機関の多くでは見過ごされたまま、長い時間が経過していましたが、最近になってようやく一部の検査機関が指摘し始めているようです。

 今回の解説はここまで。ルートB1B2に共通した計算設定の残りの項目については、次回に引き続き解説します。

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本コラムで用いたSED Ver3.1.32.3

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