Column避難安全検証法使いこなし術

(49)SED活用法(8) 計算設定(共通)解説(2/2)

2025/06/01

表紙写真.jpg 前回に引き続き、検証計算設定(共通)、今回は後半の項目について解説します。

避難開始室の全扉を使用する【初期設定値:☑オフ】

 SEDでは、居室がマトリックス状に連続して配置されている建物(例:物流倉庫や大規模な物販店等)の避難について、出火室の在室者は利用できる全ての扉に向かい、それ以外の室の在室者は避難次数の小さい方向へ避難するとされています。
 「避難開始室の全扉を使用する」をオンにすると、非出火室の在室者も出火室と同様に避難次数にかかわらず利用できる全ての扉を利用した避難となります。
※避難次数については「(45)SED活用法(4) 避難方向の手動設定」を参照ください。

出火室の隣接室を避けて避難する【初期設定値:オン】

 SEDでは、在館者は避難開始室を出た後、避難次数の小さい方へ向かうとされています。「出火室の隣接室を避けて避難する」がオンであれば、出火室の隣接室を通らなくても避難可能な場合は出火室の隣接室を避けつつ避難次数の小さい方へ向かわせることができます。これを☑オフにすると、出火室の隣接室を避けることなく、単に、避難次数の小さい方へ向かいます。

避難階が複数ある場合、避難階を超えて避難する【初期設定値:オン】

 斜面地等に建てられ、避難階が複数ある建物では、上階からの避難者の動線を変更する設定が必要です。例えば下図のように、1階、2階とも避難階である3階建ての建物で、3階からの避難者が2階で屋外に向かうか、1階まで降りて屋外に向かうかは、設計方針や避難誘導灯の設置状況で変わるからです。残念ながら告示510及び511号には、避難階が複数ある場合の具体的な検証方法は示されていないので、SEDでは独自の考えに基づいてこの項目を設定しました。そのため、検査機関から検証方法について説明を求められることが少なくありません。
 SEDでは、避難階に達した時点で地上へ向かう場合と、最も低い避難階に達してから地上へ向かう場合とを切り替えることができます。それによって、避難階の階避難開始時間、階出口通過時間、全館歩行時間が異なる結果となることもあります。
避難階を超えて避難.jpg

・☑オンの場合
 3階の在館者は、3階居室→直通階段3F→直通階段2F2階地上への出口、というルートで避難します。2階および1階の在館者はそれぞれの階にある地上への出口から避難します。
 直通階段の2階に直接地上へ通ずる出口が設置されていない場合、3階の在館者は必ず2階屋内を通らないと避難できません。このため、2階の階避難開始時間算定根拠には3階床面積が加算され、2階の階出口通過時間算定根拠には3階在館者数が加算されます。
・☑オフの場合
 3階の在館者は、3階居室直通階段3F→直通階段1F→1階地上への出口、というルートで避難します。2階および1階の在館者はそれぞれの地上への出口から避難します。
 直通階段の1階に直接地上へ通ずる出口が設置されていない場合、3階の在館者は必ず1階屋内を通らないと避難できません。このため1階の階避難開始時間算定根拠には3階床面積が加算され、1階の階出口通過時間算定根拠には3階在館者数が加算されます。

有効扉幅算定ルール

 避難安全検証法では、建具寸法からドアノブや建具の厚みを差し引いた有効幅で出口通過時間を算定し、煙伝播計算で用いる建具面積(Aco)は建具寸法を用います。
 例えば、900×2,000の片開き扉の場合、有効幅は900-50=850mm、建具面積は0.9×2.0=1.8㎡となります。
 SEDでは、建具寸法で入力すれば有効幅を自動的に計算します。
有効幅.jpg

 物件設定では、防災評定で利用される一般的な有効幅算定のための差し引き寸法が設定されています。差し引き寸法が異なる建具の場合、扉のプロパティで個別に有効幅を設定することが可能です。
有効幅の入力.jpg

 建具を入力した時点の有効幅は、建具種類に応じて物件設定に設定されている差し引き寸法が自動的に計算され表示されます。自動計算によらず任意の有効幅で計算を行う場合は、チェックボックスを☑オンとして任意の有効幅を入力します。

限界煙層高さ(Hlim)がマイナスの場合、0にする【初期設定値:オン】

 大きな床段差がありHlimがマイナスで算定される場合Hlim0として計算します。
 Hlimがマイナスとなるのは、煙伝播の計算に用いる開口部が基準点(室内も最も高い床面)よりも低い位置に設置されている場合です。蓄煙体積は、室面積×(Hroom-Hlim)で算定しますのでHlimがマイナスの場合、下図に示すように床下に蓄煙している計算となります。すると、煙降下時間が長く算定され、危険側の結果となってしまいます。そこで、安全側の検証を行うため、床高さ以下の部分の蓄煙体積を除いて計算します。
Hlimマイナス図形.jpg

Hlimを図形の通りマイナスで計算した場合
Hlimマイナス.jpg

Hlim0で計算した場合
Hlimゼロ.jpg

防火区画ライン機能を有効にする【初期設定値:オン】

 防火区画ラインが入力されている壁に性能「その他」の建具を入力すると、防火区画の種類に応じて、必要な建具性能に自動的に設定されます。☑オフの場合、この機能は停止します。

表.jpg

天井が設置されていない室の煙降下時間・煙層下端高さを+∞として結果出力【初期設定値:オン】

 天井が設置されていない「バルコニー等」を室として結果出力します。
 下図の計画では、室(2)の用途は「バルコニー」で天井がない屋外です。従って、検証計算を行わなくても煙降下時間は無限大で安全性能は確認できます。ところが検査機関によっては、避難完了時間は計算できるので計算過程を示すように求められる場合があります。その対策として、煙降下時間・煙層下端高さを+∞として出力できるようにしています。


天井なし.jpg

天井なし計算結果.jpg

 2回に渡りルートB1B2に共通した計算設定について解説してきました。私たちの安全への取り組みを少しは感じていただけたでしょうか。
 避難安全検証法は特殊な解釈をする検査機関が後を絶たず、それは利用が阻害される大きな要因となっています。煙高さ判定法(ルートB2)では是正されたものの、一方で、検証の前提となる設定が複雑化し、理解が難しくなってしまいました。私たちはSEDを通じ、設計者のみなさまがより安全な設計を行えるよう、日々改良に努めています。
 次回はルートB1に関する計算設定について解説します。

 株式会社九門が開発したSEDは、避難時間判定法(ルートB1)の検証で入力したデータを、検証方法を切り替えるだけで煙高さ判定法(ルートB2)でも検証可能です。データの入力はCAD感覚で簡単です。ぜひ、30日間無料トライアルをお試しください。

本コラムで用いたSED Ver3.1.25.2

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