Column避難安全検証法使いこなし術

(62)SED活用法(20) 避難安全検証法の問題点を検証する

2025/12/15

  • SED設定・操作・全般

表紙写真.jpg

 好評のシリーズSED活用法、最終回となる今回は、避難安全検証法の公式解説書『避難安全検証法(時間判定法)の解説及び計算例とその解説』(以降:解説書)に示された適用例を、SEDを使って検証計算を行ってみたいと思います。計算結果の比較はもちろん、作業過程で感じた疑問や問題点から、避難安全検証法そのものの検証を試みたいと思います。

簡単ではなかったデータ入力

 解説書の第5章「避難安全検証法の適用例」では、8つの適用事例について計算例を示し、検証法の具体的な手順が説明されています。今回はその中からP2022065.6物販店舗」を用います。検査機関の担当者になった気分でSEDに入力してみました。その際、寸法が明示されてない扉の設置位置については想定で、歩行経路については手動歩行経路で歩行長さを同じに設定しました。以下がSED入力の図面です。
再現データ.jpg

このデータの読み取りに際し苦労を要した点を具体的に挙げたいと思います。
①室名「バックヤード」と「倉庫」が混在している
 平面計画上「倉庫」という室は設置されていませんが、計算過程では「倉庫」と記載されていたり、一部は「バックヤード」と記載されたりと混乱しています。本コラムでは「バックヤード」で統一しました。
② 各室の条件として示された情報が不十分
 解説書に示された各室の条件はこれだけです。(P203 表5.6-1 各室の条件)

室 名 床面積(㎡) 扉幅(m) 天井高さ(m) 内 装 排煙設備
売場・風除室 2,067.84 2.1,0.85,1.1,1.6 3.9 不燃 なし
倉庫(バックヤード) 514.80 0.85×2ヶ所 2.9 不燃 なし
事務室 75.60 0.85×2ヶ所 2.9 不燃 なし


・検証計算に必須である告示上の室用途が明示されておらず、解説書の計算過程で利用されている在館者密度、積載可燃物の発熱量から推定する必要がありました。

室 名 用 途 在館者密度 積載可燃物の発熱量
売場・風除室 店舗(その他) 0.5人/ 480MJ/㎡
バックヤード 倉庫 非居室 2,000MJ/㎡
事務室 事務室 0.125人/ 560MJ/㎡


・「扉幅」の示す対象が不明確
 条件表に記載された数値は扉の有効幅なので、売場・風除室では以下の扉が該当します。
利用扉.jpg

 計算過程と照らし合わせ、居室検証をする際に避難に利用する扉が示されていることがわかりました。よって売場から事務室方向への避難は行わないものとしていると判断できます。同様に、バックヤードからは直接地上に通じる2ヶ所の扉のみ利用し屋内側には避難しない、事務所からの避難には全ての扉を利用、としていることがなんとか読み取れました。

③歩行速度が不明
 歩行速度についても明示されておらず、計算過程から逆算し読み取る必要がありました。

 このように、不明確な情報は計算書を確認する立場の人にとって読み取りを困難にするばかりか、チェック作業の手間を増やすことになります。検証の前提となる情報はきちんと整理することが必要です。SEDではその点を重視しています。以下にSED(Partnerバージョン)の出力例を示します。
室用途の整理.jpg扉(出口)の情報は出口通過時間算定時に必要不可欠です。
SEDでは、計算詳細に、避難に利用する扉を「居室出口詳細」として出力されます。
また、解説書には各居室の避難に利用する扉のみ記載されていますが、SEDでは階全体の避難に利用する扉も併せて出力されます。

・居室計算詳細出力例利用扉出力.jpg

・階計算詳細出力例(Partnerバージョン)
利用扉階出力.jpg

SED計算結果との比較

 まず、解説書に示された検証結果です。いくつかの表をわかりやすくまとめました。
解説書結果.jpg

 次に、SEDの検証結果です。
SED結果.jpg

 比較したところ、事務室で出火した場合のバックヤードでの階煙降下時間に大きな差が生じました。解説書では「事務室→バックヤード」の伝播経路で算定していますが、SEDでは「事務室→売場・風除室→バックヤード」の伝播経路で算定しているためです。つまりSEDの自動計算機能は、煙降下時間がより短くなる経路を見つけ、結果に反映しているのです。

解説書に感じた疑問

①歩行経路の起点位置の根拠が不明確
 25年前、避難安全検証法が施行された際に開催された国土交通省主催講習会(2000年)では、複数の出口がある場合、防災評定の方法と同様にそれぞれの扉による垂直二等分線で領域分割した範囲で最長歩行時間となるところを起点とし、壁面に対して垂直平行に引くと説明されていました。((10)歩行経路の考え方【ルートB1】参照)
 ところが、解説書で示された経路の起点は、垂直二等分線で領域分割によるルートと数メートルのずれがあり、起点の根拠が不明です。

②風除室の一体設定の方法について、解説書の記載内容と相違がある
 風除室の一体設定については、解説書P35「5)居室に設けられる前室の扱い」および、P288「質疑応答集31」に明記されています。特にP288「質疑応答集31」の【回答】には次のような基準が示されています。
 「風除室は火災時に有効に開けられるようにすることで、風除室手前の室と一体とみなすことができます。


一体条件.jpg

Aarea = A1 + A2
 居室の避難開始時間算定根拠となる面積は、風除室を含めた面積を用いる
Aroom = A1
 蓄煙体積に風除室部分を含まない
Broom = min(B1、B2)
 出口幅は、居室から風除室に通じる扉を風除室から地上へ通じる扉の狭い幅を利用する

 今回取り上げた適用例の風除室について、解説書では、P203「表5.6-1 各室の条件」に「風除室の自動ドアは火災報知設備の発報に連動して解錠され、避難者が手動で開放した後は、開放した状態のままとまっていることから、売場と同一の室として取り扱う。」と付記し、売場の一部としています。ところが、風除室を、売場と同様の在館者・積載可燃物として蓄煙体積にも含めて計算し、居室から風除室に通じる扉と、風除室から地上へ通じる扉幅との比較もされていないのです。 
 また、風除室を売場と同一の室=火災室と扱っていますが、前述のP35「5)居室に設けられる前室の扱い」によれば、風除室は非火災室である必要があると考えられます。どうしても風除室を火災室として扱いたいのであれば、解説書P35「6)欄間のある間仕切壁の扱い」に明記された次の条件を満たす必要があります。
 避難者の火災覚知の遅れがなく、また煙の流動を妨げないと考えられる場合には、火災室及び火災室と欄間で繋がる室とを一体に扱うことが可能である。一体の室と扱う場合の室間の欄間(常時開放された部分)の構造は以下の通りとする。
1)欄間(開口)は天井から80cm以内の部分に設置されている。
2)欄間(開口)の高さは50cm以上である。
3)欄間(開口)の幅は両室間の壁の幅に0.9を乗じた値以上である。
 解説書の適用例は、これらの条件も満たしておらず、何を根拠とするのか疑問を感じざるを得ません。

③バックヤードが非居室として扱われている点
 解説書で、室名「バックヤード」と「倉庫」が混在している点は前述したとおりですが、これは「バックヤード」を非居室として扱いたいがために「倉庫」と書き換えているように思われます。今回の例のような物販店舗では、バックヤードは商品の仕分やラベリング、保管等が行われるため、居室として扱われるのが一般的です。これについては確認審査において指摘された経験のある方も少なくないと思います。バックヤードは居室として扱うべきでしょう。

解説書を修正して疑問を解決する

 以上の疑問点を解決できるように解説書を修正し、SEDを使って算出した検証結果を示します。詳細は添付のSEDデータでご確認下さい。

修正後の検証結果
修正結果.jpg

 修正後も全ての安全性能は確認できました。しかし、全体的に避難完了時間は長く、煙降下時間は短く算定されています。0.01分を問われる確認審査の場面では、安全性能が確認できないこともあるでしょう。

 今回は、避難安全検証法の公式解説書に示された適用例のひとつについてSEDを使って検証計算を行いました。その結果の差異と作業過程で感じた疑問や問題点は予想以上のものでした。機会があれば、解説書の他の適用例についても確認していきたいと思っています。

 さて、今回の結果を、私たちはどう考えるべきなのでしょうか。これらは決して解説書の不備ではなく、避難安全検証法という法そのものに不備があると私は考えます。法文の内容が曖昧で未完成なため、多様な解釈を招く恐れがあるのです。そして、よくわからない、使い辛いといった声に繋がり、それこそが避難安全検証法の普及を妨げていると思います。

 株式会社九門は、避難安全検証法をより身近に活用していただくためにSEDを開発しました。避難安全検証法の基本を理解していれば、運用は容易です。ぜひSEDを活用し、避難安全検証法を日常に取り入れていただきたいです。データの入力はCAD感覚で簡単です。ぜひ、30日間無料トライアルをお試しください。

本コラムで使用したSEDファイル

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