(71)徹底解説「避難時間判定法」 第9回 居室煙降下時間
2026/06/10
- 避難時間判定法(ルートB1)
今回は「居室煙降下時間」の解説です。
居室煙降下時間は、居室避難完了時間と比較して安全性能を確認する、検証上非常に重要な数値ですが、あまり話題とされることが無いように思われます。ここでは、計算の基本から順を追って解説します。
居室煙降下時間とは
居室煙降下時間とは、居室で発生した火災により生じる煙やガスが、居室内の避難に支障が生じる高さ(床面から1.8m)まで降下するのに要する時間です。計算式は次の通りです。対象居室の形状から求めた蓄煙体積を、想定される火災による煙等発生量から設置されている排煙設備による有効排煙量を引いた数値で除して算定します。![]()
Aroom:
当該居室の床面積(単位 ㎡)
Hroom:
当該居室の基準点(床面の最も高い位置をいう。以下同じ。)から天井までの高さの平均(単位 m)
Vs(room):
当該居室の煙等発生量(単位 ㎥/分)算出方法についてはこの後詳しく解説します。
Ve(room):
次のイまたはロに掲げる当該居室の区分に応じ、それぞれ当該イ又はロに定める当該居室の有効排煙量(単位 ㎥/分)
煙等発生量(Vs(room))について
・避難時間判定法での煙等発生量は定常火災
通常、火災は、出火時は緩やかに徐々に拡大します。それに伴い煙発生量は増加し、煙温度も上昇します。やがて可燃物が燃え尽き、最終的には鎮火に至ります。大臣認定(ルートC)で利用される計算方法(二層ゾーンモデル)では、こうした火災の進展に伴って煙等発生量が変化する成長火災を用います。
ところが、避難時間判定法(ルートB1)では、煙の発生量を一定とする定常火災で煙降下を予測します。これは計算を簡略化するためです。
・室と煙降下時間との関係
煙等発生量は、室面積、積載可燃物の発熱量(室用途)、天井高さ、床段差などの条件によって変化します。計算式を紐解きながら、それぞれどのように影響するかを詳しく確認しましょう。
煙等発生量は、次の式により算出します。前項は火災の燃焼速度、後項は巻上効果です。煙等発生量はこの2つをかけ合わせて算出します。![]()
Vs(room):
当該居室の煙等発生量(単位 ㎥/分)
αf:
前号ハに規定する積載可燃物の火災成長率
αm:
前号ハに規定する内装の火災成長率
Aroom:
当該居室の床面積(単位 ㎡)
Hlow:
当該居室の床面の最も低い位置から天井までの高さの平均(単位 m)
Hroom:
当該居室の基準点から天井までの高さの平均(単位 m)
火災の燃焼速度

この数値が大きいほど煙等発生量は多くなり、煙降下時間は短くなります。したがって、煙降下時間を長くするためには、この部分の数値が小さくなるように計画する必要があります。
その際、やってしまいがちなのが床面積を小さくすることです。ところが逆効果になることもあり、注意が必要です。床面積を小さくすると蓄煙体積自体が減少するため、煙降下時間は短くなってしまうからです。煙降下時間の算定式では、分子に蓄煙体積が、分母に煙等発生量に関係する項が含まれ、床面積は煙降下時間の長さの決定要素です。そのため、床面積を小さくすると煙降下時間も短くなるのです。
では、煙降下時間を長くする効果的な方法は?それは、床面積を小さくするのではなく、αf、αmを小さくすること、つまり、内装の不燃化を行い、積載可燃物の発熱量を減らすことが必要なのです。
巻上効果

巻上効果とは、火災による熱気流が周囲の空気を巻き込むことで煙量が増加する度合いです。
ここでよく問題となるのが床段差です。床段差がある室は、床段差のない室に比べて煙等発生量は多くなります。僅かな段差でも煙等発生量が増加するため注意が必要です。ところが床段差は、機能上変更が難しい場合が多く、天井高さを変更することで煙降下時間を短くしようと試みることが多いと思います。
煙降下時間の傾向分析
それでは、煙降下時間と、室の面積、平均天井高さ、内装の種類、積載可燃物の発熱量の間にどのような傾向があるのかを掘り下げ、効果的な対策を検討してみましょう。
・平均天井高さとの関係
煙等発生量は、床面積が広く天井高さが高く床段差が大きければ多くなります。よって、煙降下時間を長くしようと天井高さを上げると、同時に煙等発生量が多くなり、蓄煙体積の増加と比例して煙降下時間は長くなりません。また、床段差がある場合は、算定上の蓄煙体積は小さくなるので、煙降下時間は短くなります。
内装の種類:不燃
積載可燃物の発熱量:560MJ/㎡
床段差なし、無排煙![]()
グラフ1
グラフ1の通り、室面積が広い室ほど煙降下時間は長くなります。一方、室面積に関わらず、平均天井高さ5.7mをピークにそれ以上天井高さが高いとかえって煙降下時間は短くなるという結果になります。実際の火災と異なり、計算を簡略化した告示の計算式では、このような傾向になることに十分注意してください。
・内装材料の種類、積載可燃物の発熱量との関係
内装材料の種類の性能が低く積載可燃物の発熱量が大きい程、煙降下時間は短くなります。以下の条件で確認します。
グラフ2
グラフ2に示すとおり、積載可燃物の発熱量が170MJ/㎡未満の場合は、αfが一定であるため、煙降下時間は変化しません。積載可燃物の発熱量が大きくなるにつれて煙降下時間は短くなり、内装材の種類による差も次第に小さくなります。
このように、室の形状が同じであっても、積載可燃物の発熱量、すなわち室用途が異なると、煙降下時間に差が生じます。積載可燃物の発熱量は燃え草の量を表しているため、燃える物が多い室ほど煙降下時間は短くなる、と理解しておくとよいでしょう。
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