Column避難安全検証法使いこなし術

(1)今さら誰にも聞けない避難安全検証法の基礎

2022/10/01

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今さらきけない、仕様設計と避難安全検証法(性能設計)の違い

 避難安全検証法、避難時間判定法(ルートB1)施行から20年以上になりますが、未だに仕様設計との違いをよく理解されている方が、少ないように思われます。
 仕様設計は、建物の規模・用途に応じて示された防災設計上の規定に従った設計です。それに対し避難安全検証法では、在室者が煙に曝されることなく避難できる性能を満たすよう、告示に定められた検証方法に従って設計します。具体的な設計方法から、その違いを理解しましょう。

仕様設計(ルートA)

 防災設計上の要点として、建物の用途、階数、内装の種類、採光に応じて階出口までの歩行距離(重複距離)が基準値以下であることを確認します。次に天井から80cm以内の部分の開放面積が室の床面積の1/50以上確保されていることを確認します。また、31m未満の階で床面積100㎡以下の室は告示1436号によって排煙設備を免除することが可能です。

避難安全検証法(ルートB1、B2)

 避難安全検証法は、建物の安全性能を検証する方法なので「性能設計」とも呼ばれます。検証の方法や検証範囲に応じ、以下の6種類が告示に定められています。

避難時間判定法(ルートB1)

区画避難安全検証法 令和2年4月1日 国土交通省告示509号
階避難安全検証法  令和2年4月1日 国土交通省告示510号(旧 告示1441号)
全館避難安全検証法 令和2年4月1日 国土交通省告示511号(旧 告示1442号)

煙高さ判定法(ルートB2)

区画避難安全検証法 令和3年5月28日 国土交通省告示474号
階避難安全検証法  令和3年5月28日 国土交通省告示475号
全館避難安全検証法 令和3年5月28日 国土交通省告示476号
 また、告示に示された方法によらない検証方法を用いる方法は、大臣認定(ルートC)と呼ばれます。

避難時間判定法(ルートB1)

 在室者が煙に曝されることなく避難できる性能を満たしていることを、次の3つのステップで確認します。

第1ステップ(居室の避難安全性能の確認)

 火災室となる居室において在室者全員が居室から避難が完了するまでに要する時間(避難完了時間)を求めます。次に、火災による煙やガスが避難上支障のある高さ(h=1,800mm)まで降下するのに要する時間(煙降下時間)を求め、避難完了時間が煙降下時間を超えないことを確認します。

第2ステップ(階の避難安全性能の確認)

 想定される火災室ごとに、階に存する者の全てが直通階段(避難階の場合は地上)へ避難が完了するまでに要する時間(階避難完了時間)を求めます。次に、避難経路などの部分において、火災による煙やガスが避難上支障のある高さまで降下するのに要する時間(階煙降下時間)を求め、階避難完了時間が階煙降下時間を超えないことを確認します。

第3ステップ(全館避難安全性能の確認)

 建築物全体からの避難について検討を行います。想定される火災室ごとに、在館者全員が地上(建物の外部)へ避難完了するまでに要する時間(全館避難完了時間)を求め、階段の部分又は火災室のある階より上の階へ煙が流入するまでに要する時間(全館煙降下時間)を求めます。全館避難完了時間が全館煙降下時間を超えないことを確認します。

適用除外になる基準

 検証方法に応じて、以下の項目が適用除外になります。

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避難安全検証法はコストダウンのための手法にあらず

 一般的に、避難安全検証法は建築コストを下げるための手法と考えられていますが、それは大きな間違いです。建築基準法の様々な項目を適用除外にできますし、施行当初のマスコミによる偏った報道の影響から、そういう短絡的な印象が根付いてしまったのでしょう。
 避難安全検証法では、安全性能の検証によって建築基準法の防災上の問題点を解決します。すると、それまで規定されていた基準の多くが不要となり、その結果、場合によっては、仕様設計と比較して建築コストが下がる可能性が生じる設計手法なのです。
 建築基準法の防災規定に問題があることは以前から議論されていました。そもそも、歩行距離や排煙口の大きさについて工学的な根拠はなく、過去の建物から便宜上決められたに過ぎないのです。不特定多数が利用する大規模な建物においては専門家の意見を設計に反映する建築防災評定が義務付けられていました。ところが避難安全検証法が施行されたことによって、建築基準法の防災規定の問題は解決されたとして、一部の自治体を除いて建築防災評定が行われなくなったのは嘆かわしい実情です。

避難安全検証法は手間がかかる割に利益に結び付かない

 一般に建築士に支払われる設計費は建設費の割合で決まります。避難安全検証法を利用すると建設費を下げられる可能性がありますが、同時に設計費は下がることになります。つまり建築士は建て主のために努力しても、利益が上がらないことになります。すると設計事務所は、顧客の要求に応えながら、経営上は避難安全検証法利用による設計コストアップを避ける方策を考えなくてはなりません。長期的対策としては勉強して性能設計のスキルを身に付ければ解決するでしょうが、今、目の前の1物件のために勉強に費やす時間など確保できないでしょう。多忙な建築士の多くが、とにかく建て主の要求する建築コスト削減に応えようと、後述のような低費用の業者に頼らざるを得ないのも無理はないと思います。

避難安全検証法でコストダウンを強調して宣伝するコンサルは信用できない

 避難安全検証法は建築コストを下げることを目的とする法律ではありません。本来の目的は、建築基準法では網羅できない建物の安全性を担保することです。しかし、避難安全検証法を用いると、排煙設備の削減、階段幅の縮小、階段の設置数を減らすこと等が可能となるため、本来の目的である安全性能を犠牲にして、コスト削減だけを目的に、数値合わせの設計を勧めるコンサル業者が後を絶ちません。建築士は、時間や費用にどんなに余裕が無くとも、法律本来の目的を伏せた不安全な設計があたかも設計ノウハウであるかのように吹聴するコンサル業者に、避難安全検証法の業務を預けてはならないのです。

自分自身で避難安全検証法を使いこなすスキルを身に付けよう

 このような状況になるのは、本来主導すべき建築士の不勉強が原因です。建築士には業務独占が定められ、その地位が守られる立場にあります。
 避難安全検証法による設計は大量の計算の上に成り立ちます。多忙な業務に追われる建築士が、仕様設計と比較して検討に時間がかかり解釈が難しい告示を扱うには制約が大きく、外注コンサル業者に頼りがちになることは理解できます。しかし、まずしっかり勉強して、本来の目的である建物の安全性能の確保を見据え、外注業者から提出された結果に問題ないか見極め、誤りを正せるだけのスキルを身に付けておかなくてはなりません。これは建築士の社会的責務です。

今後の防災設計の方向を示す煙高さ判定法(ルートB2)

 2021年5月新たな検証方法として煙高さ判定法が施行されました。これは避難時間判定法(ルートB1)の欠点を補い、計算で防災計画の基本を組み立てるように誘導する画期的な告示で、今後の防災設計の基本となる検証方法になると思われます。

避難安全検証法の利点を理解し、より安全な建物を長期的に利用する

 一般に避難安全検証法を利用した建物の改修は作業が多く面倒だといった意見が聞かれます。しかし、仕様設計であっても作業は変わりません。避難安全検証法のチェックには多くの設計データが必要ですが、竣工時の検証データをしっかり保管していれば改修部分のチェックを行うだけです。
 仕様設計で規定ギリギリの設計をしていると僅かな改修で法要件を満たなくなってしまう危険性がありますが、避難安全検証法では、排煙開口面積や歩行距離の規定は適用除外になるので柔軟な対応が可能です。但し、避難時間判定法(ルートB1)では、天井が低く面積の小さな居室の検証は成立しにくいので間仕切壁を追加する場合は注意が必要です。しかし、煙高さ判定法(ルートB2)は、その心配はありません。また安全性能は仕様設計と比較して格段と高いものとなりますので、建物を改修しながら長期的に利用するなら煙高さ判定法(ルートB2)を採用すればいいでしょう。

本来の防災設計のために開発されたSED

 煙高さ判定法(ルートB2)による検証作業はとても複雑です。計算自体は単純な計算式で構成されているのですが、計算に必要な要素抽出作業が非常に多く、計算ルートは複数の条件分けが設定されています。それらのルールを覚え、手作業で、試行錯誤を繰り返しながら設計を進めるなど、ほぼ不可能です。有効に活用するためには、コンピュータを利用する以外に方法はありません。さらに外注のコンサル業者に頼りたくなるでしょうが、ほんとうにそれで良いのでしょうか?仕様設計なら自分でやっている確認作業を、面倒だからと外注に丸投げしてしまうのですか?避難安全検証法による検証作業は、建築士の業務独占の範囲内であり、建築士の責務です。
 株式会社九門が開発したSEDは、足掛け20年、2,700件に及ぶ防災コンサルのノウハウが実装され、1,200件以上の申請実績(2022年11月1日現在)があります。SEDを使いこなせば、防災設計の本質を理解し、避難安全検証法を自分自身で利用できるようになります。
 ここからは実際にSEDを利用し、避難安全検証法をより具体的に解説していきます。ぜひ、30日間無料トライアルをお試しの上で読み進めてください。

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